世の中では、書籍の解体のことを「自炊」というそうですが、あまりしっくり来る言葉ではありません。

普通、

「本を自炊しているんです」

といえば、自分で原稿を書き、製本し、販売しているという意味に感じるほうが自然です。「自費出版」が転じて、「(書籍の)自炊」の意味で用いられるならしっくり来るのですがねえ。
同じようなことを以前に山根一眞氏もおっしゃていました。

というわけで、我が家では、書籍を裁断し、スキャナーで取り込む一連の作業を、「自炊」とは呼ばず、「マグロ解体ショー」と呼ぶことにいたします。「解体ショー」まで短くしようと思ったのですが、これまたちょっとグロテスク。比喩表現らしさを残すために「書籍解体ショー」ではなく、「マグロ解体ショー」と呼ぶことにいたします。

さて、本当のマグロ解体の際には、専用の大きな刺身包丁が必要になるのでしょうが(もっと、別な道具も必要かもしれません)、書籍の解体の際には、次のような「三種の神器」が必要となります。

① 工業用ドライヤー(我が家では、定番「白光 ヒーティングガン 強風 1000W No.883-13」を使用)
② 裁断機(我が家では、定番「プラス 断裁機 裁断幅A4 PK-513L 26-106」を使用)
③ スキャナー(我が家では、これまた定番「FUJITSU ScanSnap S1500 FI-S1500」を使用)

 

1.工業用ドライヤー

①の「工業用ドライヤー」は、最近、ノウハウ本で知った道具です。以前は②③ノミを使っており、ドライヤーは使っていませんでした。しかし、あると重宝します。

どのように使うのかというと、書籍の背表紙を剥がした後、ついている糊を熱して溶かすのに使います。
あまり古い本の場合、糊の種類が違うのか、長年の間に化学変化してしまっているのかはわかりませんが、糊が溶けず、あまり効果がありません。一昨昨日解体したポーターの著書や一昨日解体した『エクセレント・カンパニー』では、物の見事に役に立ちませんでした。
しかし、アマゾンのダンボールから取り出したばかりの、”ピッチピチ”の書籍にはきわめて有効。高熱により、背表紙の糊がきれいに溶け、分厚いハードカバー本であっても100頁簡単に分解できます。
100頁程度に分解するのは、分厚いままだと、②の裁断機で裁断できないからです。
ただし、このドライヤーの熱風は400度。風の出てくる口から中を見ると、ニクロム線(なのかな)が真っ赤になっていることがわかります。家庭で使用する場合には、十分にご注意を。可燃物がそばにあれば、あっという間に火がつきます。
ちなみに、アマゾンで同商品を検索すると、「よく一緒に購入されている商品」として②が紹介されています。また、「この商品を見た後に買っているのは?」では、29%のカスタマーが②を購入し、17%のカスタマーが③を購入しています。クロス・セリング(関連購買行動)の実験をしているみたいです。

 

 

2.裁断機

続いて②「裁断機」の出番。これは、昔学校や事務所にあった「二穴パンチ」の親分だと思っていただければよいかと思います。二穴パンチを縦数倍・横数倍に相似形のまま拡大し、穴をあける穿孔刃の部分を、細長い専用カッターの刃に置き換えたものです。
ですから、書籍を挟んで、二穴パンチ同様、ハンドル部分を握って体重をかけると(圧力をかけると)、ざくっと本の背表紙付近部分が切れ落ちます(穴が開く代わりに裁断されるわけです)。
留意点は、中綴じの雑誌等の場合、予め、ステープラ部分をはずしておくことです。こういった金属が混じっていると、あっという間に刃こぼれします。替刃はけっこう高いので(キャプティブ価格戦略を採用)、ご注意を。
最初の頃、通常のカッターで作業していたのですが、「危ない(結構力を入れるので、ミスすると怪我をします)」「切れない(何百ページものハードカバーの場合、なかなか全部切れません」「失敗する(カッターが曲がったり、文字の書かれた部分を間違って切っちゃったりします)」の3拍子。裁断機の使用が一番です。
なお、②も危険が全くないわけではありません。ストッパーがついていて、ハンドルは簡単には下がらないようになっており、書籍を裁断する際には、いちいちこのストッパーを解除しなければならないうようにはなっています。それでも、小さなお子さんがいるご家庭の場合(特に小さな男の子がいらっしゃる家庭の場合)、おもわぬリスクがともなうもの。おすすめいたしません。
ちなみに、この裁断機は、後に会社でも購入。出社時にキオスクで購入した”ピッチピチ”の雑誌の解体に役立っています。
アマゾンドットコムの「この商品を見た後に買っているのは?」では、②を購入した人のうち、18%が③を購入していると表示されます。

 

3.スキャナー

最後が③。超売れっ子スキャナー。
キヤノンをはじめ、最近では他にもよいスキャナーが増えてきましたが、私が購入した1年半ほど前の段階では、性能的にダントツ。今持ってベストセラーの地位にあります。
A4サイズの紙までが取り込み可能(技を使うと、A3でも大丈夫)、かつ、50枚程度までいっぺんに両面スキャンが可能という優れモノ。
しかも、速い! 解像度にかかわらず、毎分20枚・40面の高速読み取りを実現しています。
また取り込みたい原稿の枚数が合計50枚以上の場合でも、「継続読み込み」というしくみがあるため、最終的には自動的に1ファイルとして取り込んでくれます。
日本語OCRもついていて、自動的に、読み込んだ文字はテキスト情報としてファイルに付加されます。
残念ながら読み込み精度はいまいち。特に古い活字の縦書き原稿の場合、ほとんど役に立ちません。
ポーターや『エクセレント・カンパニー』の認識率は低すぎて使い物になりませんでした。アドビ・アクロバットを使って、読み込み直したほうがよいかもしれません。今度、両者の違い(ScanSnap付属ソフトvs.アドビ・アクロバット)を検証してみよう。
当然ですが、アマゾンドットコムによれば、「よく一緒に購入されている商品」として、②が紹介され、「この商品を見た後に買っているのは?」では、5%のカスタマーが②を購入していると表示されます。

 

 

以上①②③の流れで、「マグロ解体」は実にスムーズに進行します。
慣れてくると、『競争の戦略』の場合でも、「加熱⇒分解⇒裁断⇒スキャニング」までで15分くらい、その先の「⇒OCR化」まで(ここは自動作業なので、立ち会う必要がないのですが)、20分かかりません。

「外注に出せば良いじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、そうすると、著作権法の侵害に該当するおそれがあります。専門家の意見を伺うと、「マグロの解体」は、あくまでも「私的使用」でないとまずいようです。