誕生日の朝、右目のまぶたが赤く腫れていた。
軽いかゆみと、触れると痛みがある。いわゆる「ものもらい(麦粒腫)」の初期症状だった。
原因は、疲労と寝不足、それに加えて、無意識に汚れた手で目を触っていたのかもしれない。日々の雑な生活が、こうして症状に出る。
ドラッグストアで手に取ったのは、参天製薬の「サンテ抗菌新目薬」。抗菌成分を含み、ものもらいにも適応がある市販薬だ。
「充血・疲れ目」用とは異なり、これは細菌そのものに働きかける「抗菌目薬」だということを、今回は改めて痛感した。
腫れはまだ引き切っていないが、徐々に落ち着きそうな気配がある。
それと同時に、「この目薬も、もし輸入価格が見直され、薬価制度が変わってしまったら、気軽に買えなくなるのかもしれない」と考えてしまった。
今、アメリカでは医薬品価格の見直しが進もうとしている。トランプ大統領が掲げた「最恵国価格(MFN)ルール」は、「アメリカは薬を他国より高く買わない」という方針である。
世界最大の市場が価格交渉力を行使すれば、その余波は確実に他国にも及ぶ。
日本の薬価制度は、公定価格と診療報酬制度を通じて、国民皆保険を支えてきた。
しかし、それはアメリカや多国籍製薬企業にとって「人為的な価格抑制」と映るようだ。
今後もし、「日本ももっと高く買え!」と圧力がかかれば、日常的に使っている目薬さえも、価格上昇や供給遅延の影響を受ける可能性がある。
実際、製薬企業が収益性の高い国から順に薬を投入する構造はすでに存在しており、希少疾患や高額医薬品では、承認申請が遅れるケースも出てきているという。
薬価政策をめぐるアメリカの動きは、政権が変わっても方向性は保たれている。バイデン政権では「インフレ抑制法(IRA)」を通じて、メディケアに限定的な価格交渉権が与えられた。薬価の政治化はすでに制度化の段階に入っているといえよう。
ものもらいに抗菌目薬を買う…それだけの出来事が、医療と経済、そして外交の境界線を静かに越えてくる。
私たちは、目に見える炎症にだけではなく、見えにくい圧力にも、少し敏感になっておく必要がある。