2025年、ドナルド・トランプ大統領が再登場し、米国の通商政策は再び大きく動いている。中国に対する60%の追加関税、自動車・鉄鋼・アルミなどへの広範な関税措置に続き、5月には航空機・エンジン・部品に対しても関税調査を開始した。対象はボーイングなどの商用機に使われる部品全般であり、日本企業の影響は避けられない。

航空機部品は複雑で高精度な製品であり、日本企業が得意とする分野である。三菱重工や川崎重工は機体部品、IHIはエンジン部品、東レは炭素繊維、大同特殊鋼や神戸製鋼も含め、多くの日本企業が米航空機産業の基幹供給網に組み込まれている。ボーイング787では日本製部品の占める割合が3割以上とされており、この供給構造は簡単に代替できるものではない。

トランプ政権はこれを「国家安全保障」の観点から見直すというが、その実態は、国内雇用の回復と輸入代替を目的とした産業政策である。これにより一時的に国内の一部製造業が潤う可能性はあるものの、中長期的には複数の副作用が予見される。

輸入品に対する高関税は物価の上昇を招き、低所得層を中心に生活費の負担が増す。次に、報復関税によって農業・IT・航空などの輸出産業が影響を受ける。サプライチェーンの断絶は企業の投資意欲を減退させ、研究開発や生産の効率を低下させる。

アメリカの「国力」は製造業の工場数だけでは測れない。国際的な信頼、通貨の安定、優秀な人材や資本を引き寄せる制度環境、同盟国との産業協力など、総合的な力に支えられてきた。それらの資産を関税政策が少しずつ切り崩しつつある。両者はトレードオフの関係にある。

今回の航空機関税検討は、日本にとっては単なる通商問題ではない。技術主導の産業構造への打撃であり、長期的な成長基盤の侵食である。英国には例外措置が取られたことを踏まえ、日本政府もただちに対米交渉を強化すべきである。

「アメリカ・ファースト」の名の下で進む一連の関税政策は、結果として「アメリカ・アローン」へ向かう危険をはらんでいる。トランプ政権の選択が、米国自身の産業と経済の持続性を損なわないか、冷静に検証されるべき段階に入っている。