先日、ある企業の新任管理職研修でハラスメント対策について話をする機会があった。大企業ではすでに制度が整備されているため、今さら関心を持つことはないのではないかと考えていたが、実際には驚くほど多くの管理職が関心を寄せていた。
研修の中で、参加者の多くが「自分の言動はハラスメントなのではないか」「これまでの指導方法は許容されるのか」といった不安を抱えていることが浮き彫りになった。知識を得れば得るほど、どこまでがセーフで、どこからがアウトなのかの線引きが曖昧になり、がんじがらめになってしまうという声も多かった。
しかし、本当に必要なのは「何をしてはいけないか」というルールに縛られることではなく、「どのようにすればより良い職場環境を築けるのか」を考えることである。
事例から学ぶことの重要性
ハラスメント対策において最も効果的な学習方法は、具体的な事例を学ぶことだ。「これはOK、これはNG」といった基準を机上の知識として覚えるだけでは、実際の現場では適用しづらい。しかし、多くの事例を学ぶことで、より実践的な判断基準を身につけることができる。
例えば、「厳しい指導はすべてパワハラなのか?」「部下を叱ること自体が問題なのか?」といった疑問に対しても、実際の事例を通じて考えることで、適切な指導とハラスメントの違いを理解することができる。
「自分がされたらどうか?」の視点を持つ
他者視点を持つことが重要だと言われても、なかなか難しい。しかし、「自分がされたらどう感じるか?」という視点で考えることで、自然と他者の気持ちを想像しやすくなる。
例えば、管理職が部下に対して「もっとしっかりやれ」「何度言えばわかるんだ」と言った場合、言葉自体は厳しいものではないかもしれないが、言われた側がどのように感じるかを考えることが重要だ。もちろん、指導そのものを否定する必要はないが、「どのように伝えれば相手にとって前向きな影響を与えるのか」を意識することで、より良いコミュニケーションが生まれる。
未来の基準を先取りする
5年後、10年後のハラスメント基準は今より厳しくなる可能性が高い。現在のガイドラインだけを基準に行動すると、将来的に「当時は問題なかった」では済まされなくなるリスクがある。
過去の発言や行動が数年後に問題視され、SNSや内部通報によって批判を受けるケースは増えている。そうした事態を避けるためにも、今の基準ではなく、未来の基準を予測し、より厳格な基準で自分を律することが重要だ。
例えば、これまでは問題視されなかった言動が、時代の変化とともにハラスメントとされるケースがある。「職場の飲み会の参加を強要しない」「プライベートに踏み込みすぎない」といったことはすでに一般的なルールになっているが、今後はさらに「仕事上のやりとりにおいても相手の心理的安全性を配慮する」ことが求められるようになるだろう。
ハラスメント対策の本質は「関係性の質」
ハラスメント対策は「何を言ってはいけないか」に縛られるものではなく、「どんな職場を作りたいか」を考えることが本質だ。
管理職は、単にルールを守るだけの存在ではなく、職場文化を形成するリーダーである。部下が安心して意見を言える環境を作ることができれば、ハラスメントを未然に防ぐことができるだけでなく、より良い職場環境が生まれる。
ルールの厳格化によって委縮するのではなく、関係性の質を高めることで、ハラスメントのない職場を実現する。そのためには、管理職自身が成長し続けることが求められる。未来の職場環境を見据え、今から何をすべきかを考え、行動することが重要だ。