たまには中小企業診断士らしい投稿をしたい。

ユニクロの「スフレヤーン」。この製品を単なる「安くて暖かいニット」と見ているなら、その本質を見誤っている。スフレヤーンは、価格競争に陥らず、消費者に「買う理由」を提供することに成功した、マーケティングの秀逸な実例だ。

ユニクロは「スフレヤーン」という名前を付けることで、単なる「合成繊維のセーター」を「独自素材」に昇華させた。これがマーケティングの第一のポイントだ。「ウールより軽くて暖かい」「チクチクしない」「洗濯できる」という機能性を押し出し、カシミヤやウールとの差別化を図る。カシミヤの代用品ではなく、カシミヤと別の価値を持つ新素材——「カシミヤを選ばない理由」ではなく、「スフレヤーンを選ぶ理由」を提示している。

価格設定も巧みだ。カシミヤは1万円以上、ウールのニットも5,000円前後。一方、スフレヤーンは3,990円。この価格帯は「ユニクロの中では少し高め」だが、「カシミヤやウールと比較すると手頃」。つまり、価格を絶対値で見ればユニクロの中ではプレミアム感があるが、相対的に見れば「賢い選択」と思わせる。消費者心理を突いた絶妙な設定だ。

さらに、ユニクロはこの製品を「期間限定商品」にすることで希少価値を演出している。秋口からプロモーションを開始し、11月〜12月の本格的な冬に販売ピークを迎える。そして、1月後半からは値下げを開始し、在庫処分を進める。スフレヤーンは「定番品」ではなく「シーズンごとの進化」を強調し、毎年「改良される期待感」を持たせることで、リピート購入を促す仕組みを作っている。

販促戦略も緻密だ。「軽さ」「柔らかさ」「暖かさ」といった触感に依存する価値を、どうデジタルで伝えるかという課題に対し、SNS戦略を駆使する。Instagramでは、インフルエンサーが「ふわっと軽い着心地」を動画で伝え、TikTokでは「ユニクロのスフレヤーン vs. カシミヤ」などの比較コンテンツが拡散される。ハッシュタグ「#スフレヤーン」を活用し、消費者に「自分の言葉で製品を語らせる」ことで、広告以上の影響力を生み出している。

このように、スフレヤーンは単なる「売れる商品」ではなく、「売り方そのものが計算し尽くされている商品」だ。

このマーケティングから学ぶべきことは、「価格を下げるのではなく、価格に納得させる戦略を作ること」だろう。ユニクロは、スフレヤーンを「安いから売れる商品」ではなく、「買いたくなる理由を作った商品」に仕立て上げた。中小企業や個人事業でも、「なぜこの価格なのか?」を消費者に納得させるストーリーを作ることが、競争を避ける鍵になるのではないか。

スフレヤーンは、素材ではなく「マーケティングの技術」で売れている。そこにこそ、学ぶべき価値がある。