第1回では、私がプラトンの思想とどのように出会い、彼の哲学が現代社会においてなぜ重要であるかについて触れました。ここからは、プラトンの生涯と彼が築いた哲学の基礎について、シュヴェーグラーの『西洋哲学史』(岩波文庫版)を参考にしながら詳しく解説していきます。
フリードリヒ・シュヴェーグラー(Friedrich Ueberweg, 1826-1871)は、19世紀におけるドイツの著名な哲学者であり、ここで参照する彼の主著『西洋哲学史』(Grundriss der Geschichte der Philosophie)で知られています。
この書籍は、古代から近代に至るまでの西洋哲学の発展を体系的にまとめたもので、多くの哲学研究者にとって重要な参考書となっています。私も何度も読みましたが、岩波文庫版では上下巻に分かれていますが、特に上巻はギリシア哲学についてたいへんわかりやすくまとめられていると感じました。
シュヴェーグラーは、哲学史を学問的に整理し、哲学者たちの思想を批判的に評価しています。彼の作品は、当時の哲学的議論に影響を与えただけでなく、後世の哲学史研究の基盤を築いたものとされています。
今回は、シュヴェーグラーの視点を交えつつ、プラトンの生涯と哲学の概要についてまとめてみました。
1.ソクラテスとの出会い
プラトンは紀元前428〜427年頃に生まれ、若い頃からアテナイの政治や社会に関心を寄せていました。しかし、彼の哲学的人生が決定的に変わったのは、師であるソクラテスとの出会いによってです。シュヴェーグラーによれば、プラトンがソクラテスから受けた影響は計り知れず、特に「対話」を通じて真理を探求する姿勢が、彼の哲学の根幹をなすことになりました。彼はソクラテスの弟子となり、彼の思想や倫理観に深く共鳴しました。
プラトンがソクラテスから学んだ最大の教訓は、「知恵とは、無知を知ることである」という概念でした。この教えは、のちにプラトンの哲学の中核をなす「イデア論」や「正義」の議論に深く関わってきます。ソクラテスが示した問いかけの手法は、対話を通じて真理に至るというプラトンの哲学に強く反映されています。
2.ソクラテスの影響とプラトンの哲学の発展
プラトンの哲学的基盤は、ソクラテスの死を契機に大きな転換を迎えます。シュヴェーグラーの記述では、ソクラテスの不当な処刑がプラトンに与えた衝撃は非常に大きく、彼が「理想の国家」や「正義」の概念を探求し始めるきっかけとなったとされています。この時期、プラトンは師の思想を継承しつつも、彼自身の哲学体系を築き上げていきます。
プラトンの哲学の核心にあるのは「イデア論」です。現実世界は変化し続ける不完全なものに過ぎず、真の存在は「イデア界」にあるという考え方です。
この思想は、ソクラテスの影響を受けつつも、プラトンが独自に発展させたものです。彼は、正義、善、美といった抽象的な概念も、このイデア界に存在する永遠の真理であると考えました。
3.『ソクラテスの弁明』と魂の不滅
次回の第3回では、『ソクラテスの弁明』を取り上げ、正義と死の意味について深掘りしていきます。プラトンがソクラテスを描いたこの作品は、彼の哲学思想の原点であり、ソクラテスが死に際して示した「魂の不滅」という考え方が重要なテーマとなります。
ここでの「魂の不滅」という思想は、プラトンが後に『パイドン』などで展開する重要なテーマの一つです。シュヴェーグラーもこのテーマに特筆し、プラトンの死生観がソクラテスの影響下で形成されたことを強調しています。魂は肉体から解放され、より高次の存在へと至るという考え方は、プラトンの思想の核心に位置しています。
4.プラトンのイデア論
シュヴェーグラーによれば、プラトンのイデア論は彼の哲学全体を貫く中核的な概念です。彼は、現実世界は単なる影であり、真の実在はイデア界にあると主張しました。これにより、プラトンの思想は「現実世界の見方」を根本的に変えるものであり、物質的な世界を超えた永遠の真理の探求へと導きました。
シュヴェーグラーの時代においても、このイデア論はプラトンの最大の功績として高く評価されており、彼の哲学が後世の思想家に与えた影響の大きさが強調されています。
第2回では、プラトンの生涯と彼が築いた哲学の基礎についてシュヴェーグラーの視点を交えて解説しました。プラトンの哲学は、ソクラテスとの出会いを通じて形成され、彼の思想の核心には「イデア論」と「魂の不滅」があります。この思想は、後に彼が描く『ソクラテスの弁明』や『国家』、『パイドン』といった作品を通じて発展していきます。
次回、第3回では、『ソクラテスの弁明』を題材に、ソクラテスの正義に対する考え方や死に際して示した哲学的態度についてさらに掘り下げていきます。彼がどのようにして自己の死を受け入れ、魂の不滅を信じたのか、プラトンの記述をもとに解説します。