『両利きの経営』(チャールズ・A. オライリー (著), マイケル・L. タッシュマン (著), 入山 章栄 (翻訳))を読了。

なかなか興味深いテーマだと思うが、翻訳者の入山先生が序章で予告しているような、クリステンセンを超える結論というのは、いささか広告に偽りありだと感じた。残念ながら、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』ついて初めて学んだ時のような衝撃はない。

既存事業を「深化」しながら、新規事業の「探索」を続けるという「両利き」が必要だというのが、本書の最大の主張である。そのために、経営者や上級リーダーにとって必要な心構えが結論づけられている。

しかし、マーチの組織論、アンゾフの成長マトリクス論と多角化理論、そして、クリステンセンのイノベーション理論の延長上にある主張であり、独創性や真新しさはない。

ただし、各々の事例についてはよく取材されており、分析も悪くはないと思う。取材先の各経営者の言葉の中には、思わず、下線を引きたくなる名言も多い。

翻訳者の入山先生の著書『世界標準の経営理論』の副読本としても価値がある。入山先生が取り上げた最新の経営理論の背景となった事例が数多く掲載されているからである。

総合的には、5段階評価では星3.5。ちなみに、『世界標準』の方は文句なく5である。