フリクション・ボールペンがヒット商品となっています。
確かに「消せるボールペン」の存在はありがたい…書き直しが自由にできて便利です。
手帳の指南書の中でも、「手帳にはフリクション・ボールペンを使用せよ」と推奨しているものが何冊かあります。
理由は簡単。スケジュール変更が頻繁に変わる場合など、都度、バッテンマークや二重線で消していたのでは、手帳が汚くなってしまうが、フリクション・ボールペンを使えばそれを防げるというものです。
確かに、きれいに情報が並んでいる手帳は美しいものです。
しかし、紙の手帳の電子手帳に対するプライオリティの1つが、私は、この「修正前の情報の残骸が常に見える点」にあると考えています。
電子カレンダーで予定の変更をすると、変更前の予定は完全に消えてしまいます。見た目はきれいですが、「元々その日、どんな予定が入っていたのか」という情報が残っていたほうがいい場合というのは、案外あるものです。
「あなた」が、12月25日にAさんとの面談が元々入っていたとします。
同じ日に、Bさんからも相談の打診を受けたとしましょう。当然、Aさんとの面談が入っていますから、「12月25日はAさんの面談があるから」と、Bさんには断りの連絡を入れますよね。ところが、後日、Aさんから面談のリスケジュールが求められ、これに応じたとしましょう。電子カレンダーの場合ですと、これで、12月25日は、まったくの「空白」地帯となります。
その後、Cさんから「12月25日は空いていますか?」と尋ねられれば、自らの「空白」を確認したあなたは、「OKです」と返事しますでしょう。この時点で、あなたは、以前に、Bさんに断ったことは忘れてしまっています(Bさんに断りを入れたことは覚えていても、それが12月25日であったことは忘れてしまっているわけです)。
12月25日当日。会議室で、「Cさん」と1日面接しているあなたを見つけたBさんは、訝しく思って、Aさんに訪ねます。Aさんは、Bさんに、「あ、今日の面談は、来週にリスケジュールしてもらいましたよ」と答えます。さて、Bさんはどう感じるでしょうか?
「Aさんとの面談が伸びたのなら、どうして、私(B)に一声かけてくれなかったのか??」
こう感じるのではないでしょうか。
紙の手帳であれば、「Aさんの面談」がキャンセルになった経緯や、それ以前にBさんからも面接の要請があったメモなどが、走り書きかもしれませんが、書かれている可能性があるのです。後日、Cさんからも面接の要請があったあなたは、Cさんに事情を説明し、「この日はAさんとの面接がリスケになったので空いてはいるのだが、Bさんからも先に面接を要請されているので、そちらを優先したい」と事情を述べ、Bさんとの面接を受諾するのではないでしょうか。
ここまで極端な場合ではなくとも、キャンセルや予定変更の履歴やそれに伴う付帯情報というのは、たとえ走り書きであっても、「残骸」として残っていたほうが、何かと役に立つものです。
フリクション・ボールペンを使ってしまっては、こういった情報も「不要な情報」として消し去ってしまう可能性もあるわけです。
そもそも手帳というのは、自分がわかればいいわけですから、極端に「きれい」である必要はありません。適度な雑多感はあってしかるべきです。
それ以前に、そもそも、
① 紙の手帳の機動性から考えて、特定の筆記用具の使用を前提として考えるのはもったいない
② 消せることを重視したいなら、鉛筆かシャープペンシルを使えば済む
わけです。ですから、「見た目がきれいになるから」という理由でフリクション・ボールペンの採用を肯定する意見には、賛同できません。