2.機械学習・ディープラーニング・ニューラルネットワーク(1)
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さて、ディープラーニングという言葉が出てきましたが、それと同じくらいの頻度で、最近のAI研究の記事やらニュースやらを見ると登場する言葉に、「機械学習」があります。
あるいは、「ニューラルネットワーク」という言葉も耳にします。
これらは一体どういう概念なのでしょうか。
また、どう異なるのでしょうか。
難しいことは置いておいても、要は、いずれも、理想的なAIに近づくための重要な技術的手段に関するキーワードのようです。
(1) 機械学習とディープラーニング
機械学習は、人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術・手法の総称のことです。
研究者たちは、いろいろな手段を使って、AIに学習をさせようと試みています。
その代表例が、ディープラーニングという技術なのですね。
具体的には、コンピュータの計算過程を単純な1層計算ではなく、複数の層を設けて行う複数層の計算を用いることにより、より複雑な「判別」をさせようという手法です。
この考え方自体は、実は昔からあったそうです(最新の考え方ではなかったということです)。
しかし、「ダ・ビンチの飛行機」同様に、第1次・第2次AIブーム当時の技術レベルでは、実現できなかったわけです。
「層」といわれても、文系の私には具体的にはピンとは来ないのですが、それでも、なんとなく、「層が深くなる」と「複雑な計算ができる」ということは、かろうじて、頭のの中にイメージすることはできます。
その複雑な計算をするためには、高速のコンピュータや膨大なインターネットによる情報(データ)が必要だったわけであり、つい最近まで実用化できなかったことも、これまた、なんとなくですが、理解することはできます。
(2) 人工ニューラルネットワークの存在
ディープラーニングを実用化する際には、人間の脳のしくみに関する研究が取り入れられました。
これがニューラルネットワークです(ニューラルとは神経回路のことですから、ニューラルネットワークとは神経回路網と訳されます)。
しかし、実際には、初期においてこそ、AI研究におけるニューラルネットワークは、人間の脳の構造がヒントにはなったようですが、現在では、私達の脳の中にある「本来のニューラルネットワーク」とはかなり程遠いものになっているそうです。
AI研究も日進月歩ですが、人間の脳の研究も同様に日進月歩の世界です。スタート地点は同じだったとしても、両者の研究が進むに連れて、各々「別物」に変化していったということなのでしょうね。
選挙のときには「連立」「同盟」するといっておきながら、時間が立つと「見解の相違」が表面化し、「連立解消」に終わる政党のようなものなのでしょう。
ちなみに、脳科学の分野で現在活躍している学者の皆さんは、もともと素粒子の研究をされていた方々が散見されるそうです。
素粒子論(物理学ですよね)と脳科学(医学や生理学の分野ですよね)…全然かけ離れている気がしますが、なぜ、素粒子の専門家は脳の研究に「転向」してきたのでしょうか。
実は、素粒子論の方はこのところ、目覚ましい発展が相次ぎ、行き着くところまで行っちゃったという見方があるようです。つまり、研究できそうな手頃な分野がない…という状態ですね。
そこで、素粒子論の先生方(世界的な頭脳ばかりなはずです)は、「居場所」を求めて、脳科学の世界にやってきたそうです。
彼らくらいの頭脳の持ち主ですと、専門領域がガラリと変わっても、どうということはないのですね。すごい話です。
話を戻しましょう。
というわけで、現在のAI研究におけるニューラルネットワークは、本家の脳科学研究におけるそれと区別するために、
「人工ニューラルネットワーク」
と呼ばれています。
話が複雑になってきましたが、整理すると、こういうことになります。
① 理想的なAIを開発するためには、AI自身にいろいろなことを学ばせるしくみ(「機械学習」)が必要だった
② 機械学習のための手段の代表例が「ディープラーニング」という手法であり、計算過程を「多層化」することにより、複雑な計算ができるようになった
③ ディープラーニングを実用化するにあたっては、人間の脳のしくみからヒントを得た「ニューラルネットワーク」が利用されている
…とまあ、こんな感じです。
AI研究の専門家の方が見たら、添削されそうな稚拙な表現でしょうが、ま、よしとしましょう(笑)
(3) ディープラーニングの前提条件
ディープラーニングを日本語に訳すと「深層学習」となります。
なんとなく、心理学やカウンセリングで使われそうな言葉ですが、れっきとしたIT用語です。
ディープラーニングは、第3次AIブームを象徴する言葉であり、前述したように、ブームの「立役者」となった技術でもあります。
2016年にトップ級の囲碁ブロ棋士を、グークルのグループ企業であるイギリスの企業デイーブマインド(この「ディープマインド」は企業名=固有名詞です)の人工知能「アルファ碁」が破りましたが、「アルファ碁」にもディープラーニングの技術が使われていました。
先程私は、ディープラーニングが実現可能になるためには、コンピュータの計算速度(処理能力)が飛躍的に上る必要があったと申し上げましたが、それと同時に、「大量のデータ」も必要でした。
実際、AIが何かを学ぶとき、とんでもない量のデータが必要になります。
何億枚の写真とか、何千時間分の動画とかといった類のもの、あるいは、数億人乗顧客データとか数億台のクルマの移動データといった、いわゆる「ビッグデータ」とよばれるデータの集合もこの延長上に存在するわけです。
1980年台(第2次AIブームの時代です)のパソコンで、これらのデータをいちいち打ち込んだり、スキャンしたりしていたとしたら、何百年たっても終わりませんでしたでしょう。
大量の情報とそれを処理する計算能力…この2つの前提条件がセットでそろったからこそ、第3次AIブームが到来したということです。
(4) AIの事例(AIによるきゅうりの選別)
ここで、ディープラーニングを用いた機械学習の事例を1つご紹介したいと思います。
ある農家が開発したAIです。
こういうAIを農家=中小企業が開発できてしまう時代になったこともすばらしいことです。
もっとも、一から農家が作ったのではありません。Googleのような大企業は、今やベースとなるAIの技術を公開しているため、それを利用すれば、中小企業であっても、独自のAIを比較的容易に作ることができるわけです(技術を公開している大企業側は、中小企業が利用してくれることにより、データを集めることできるわけです)。
このAIは、
「収穫したきゅうりをランク別に仕分けするためのしくみ」
として機能しています。
きゅうりというのは、どういう場合がAランクで、どういう場合がBランクなのか、厳密に定義づけすることは難しいはずです。
長さが○センチ以上、イボの数が○個ならA、そのどちらかの条件を満たしていなければBといった単純な場合分けはできないからです。
「全体的に判断」した上で、「これはAだ」「これはBだ」と選別しているのでしょう。
つまりは、農家の方の持つ「暗黙知」。
従来はこれをAIに教えることは不可能でした。プログラムが書けませんから、教えようがありませんよね。
しかし、機械学習を導入すれば、暗黙知をAIに教え込むことも可能になるわけです。
事前に、何百本か(何千本か)のきゅうりを見せ、「これはAだ」「これはBだ」と、教え込むわけです(学ばせるわけです)。
「なんだ、人間が事前に教えるのか」
とがっかりしないでください。
今までであれば、「Aに分類されるきゅうり」「Bに分類されるきゅうり」の「定義」をプログラムで「人間」が書いてあげなければならなかったわけです。
今回はそれとは違います。
人間に事前に教え込まれた「経験」を通じて、AI自身が、
「なるほど、Aランクのきゅうりってこういうことね」
「Bランクのきゅうりってこういうものなのね」
と、少しずつ理解していくのです。
プログラムの書き換えは、AI自身が行っているわけです。
人間から見れば、AIの中をこじ開けてみない限りは、ブラックボックスです。
実際のきゅうり選別の瞬間の動画が公開されていますので、YouTube等でご覧になってみてください。
<次回に続く>