今日の「名著を読む会」で話題になったSF商法。
一般には催眠商法といいます。

先月今月の課題図書『影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく』(ロバート・B・チャルディーニ (著), Robert B. Cialdini Ph.D (著), 岩田 佳代子 (翻訳))の中でも、再三にわたって指摘されている悪徳商法です。

Wikipediaによれば、

「催眠商法(さいみんしょうほう)とは、催眠術(→催眠)的な手法を導入し、消費者の購買意欲を煽って商品を販売する(本来は必ずしも必要ではない製品を売り付ける)商法である。最初にこの商法を始めた団体の名にちなみSF商法(えすえふ- しょうほう)(由来は後述)と呼ばれたり、参加者の気分を高揚させるため無料配布物等を配る際に、希望者に「はい」「はい」と大声で挙手させることからハイハイ商法とも呼ばれる。このような商法を働く業者は自らを宣伝講習販売(せんでんこうしゅうはんばい)と称している。」

だそうです。

「買わなきゃ損損」
「あと数個!」
「今しかないよおお」

「私買います」
「あ、僕も」
「こっちもサインします」

いやあ。
他人事じゃあないですよ。

自分と同じような立場の方々が次々と意思決定すると、それにつられてサインするような状態に至ることを、

「社会的証拠による意思決定」

といいます(『影響力の正体』)。

あ、ちなみに、『影響力の正体』の中では、

1.恩義
2.整合性
3.社会的証拠
4.好意
5. 権威
6.希少性

という6つの影響力のルールがあげられています。

社会的証拠はその3番目。

プロ野球選手や芸能人がその場でサインしていても冷静に見ていられてるのに、自分と同じような仕事に就いている中小企業診断士や経営コンサルタントの方々がこぞってサインしていれば、私も、

「あ、僕もサインします」

というかもしれません。

「同業のコンサルタントや中小企業診断士」…つまり、自分に似ている人の選択行為そのものが、「社会的証拠」になるわけです。

「この人達がサインしているんだから、間違いない」

と、私は信じてしまうだろうということです。

怖いですね〜〜〜 

SF商法の標的は、主婦や高齢者でした。
それも、意思決定力の弱い「意思決定弱者」が狙いでした。
心の隙間に入り込んできて、中身はないのに高額の布団や印鑑・壺等を売りつけようとしていたわけです。

時代はかわって、今やSNSの時代。
それでも、「意思決定弱者」に対する類似商法は跡を絶ちませんね。
突然送られてくるセミナー(無料あるいは格安)に足を運んでみると、

「あなた方は損をしている」
「自分の生き方を変えないと後悔する」
「私達はそのためのノウハウを持っている」
「一緒に頑張りましょう」

の一点張りで、高額のコンサル料や授業料の納付を、じんわりと、しかし、確実に迫ってくる…

「今期はあと2名なので」
「ここにいる全員はお受けできないので」
「どうしてもという方は仮押さえしておいてください」

ああ。
ここまで言われると、私も、ぐらっと来てしまいます笑

販売目的とは告げずに集められたセミナー会場で、

「不意打ち的に」

勧誘する行為。
絶滅するどころか、SNSが普及してからは、むしろ勢力を拡大しているのではないかと思います。

概ね、手口はいっしょ。

1.SNSでは「いい人」を演じ、いろいろ情報を発信する(『影響力の正体』における「好意」に該当)

2.無料もしくは低価格(『影響力の正体』における「恩義」に該当)のセミナーにSNS上の「友達」を大量動員する

3.セミナー会場では、予告した内容とは程遠い、

「あなたがいかに損な生き方をしてきたのか」
「あなたがいかに遠回りな生き方をしてきたのか」
「あなたがいかに損な役回りをしているか」

等々を延々と語り続け、権威勾配を強め、一切の「質疑応答」を受け付けない高圧的な「雰囲気」の醸成に全力を傾けます。

「俺の発言に何か文句でもあるのか?」

といわんばかりの高圧的環境をじんわりと作っていくわけです(『影響力の正体』における「権威」に該当)。

4.頃合いを見て、配置していた「サクラ」に次々と「申し込みます」行動を取らせ、ダチョウ倶楽部もびっくりの「俺も」「俺も」の大合唱。申込者殺到状態を創出します。

5.その際のポイントは「数量限定」「期間限定」です(『影響力の正体』における「希少性」に該当)。
 (1) 数量限定 「あと数人!」
 (2) 期間限定 「いつ申し込むか?」「今でしょう」

別に、販売される商品や役務に、「成功保証」がなされているわけでもないのでしょうが、皆さん、こぞってサインしてしまうわけです。

「やめときなさい」といくらいってもだめ。
何しろ、催眠状態ですからね。

恐るべきは、数カ月後にお会いした時に、

「いかがでしたか?」

と伺うと、多くの方が、申し込んだ役務がろくに役にたっていないか、あるいは、ほとんど利用していないにも拘わらず、

「最高でした」
「今までで一番よかった」
「人生が変わりました」
「参加してよかった」
「実りある内容だった」

と、口をそろえて、こうおっしゃるのです(『影響力の正体』における「整合性」に該当)。まるで、認知的不協和の教科書に出てくるような状態です。

「いやあ、失敗しちゃいました」
「お恥ずかしい。見事にカモにされちゃいました」

と頭をかきながら苦笑される方はいないのです。

クレームを言う人が以外に少ないのは、自分の意思決定を否定したくないという「整合性」のルールが助けていたのですね。
このへんのからくりも見事!(皮肉を込めて…ですが)

私はかなりセミナーや講演には辛口なほうなので、他の方と同じセミナーや講演を聞いていても、満足することは少なく、

「いやあ、いまいちでしたね」

などと口に出してしまうことが多いのですが、多くの場合、反論されます。

「そんなことないですよ。私は感動しました」

自分が選んで、わざわざ足を運んできたセミナーや講演が悪いものであるはずはない…(『影響力の正体』における「整合性」に該当)
わたしはこれを、

「精神的サンク・コスト(埋没原価)」

と名付けました。

「自分が愚かな選択をしたことを認めたくない」
「過去の努力を否定したら、自分の立場がない」
「認めたくないものだな。自分の若さゆえの過ちというものを」

お気持ちは十分にわかります。
私も同じような気持ちになること、なったことが山のようにあるからです。
『影響力の正体』を読んでいると、自らの意思決定力の弱さをしみじみと感じてしまいます。

たとえば、ヤフオク。
一時期、はまりました_| ̄|○
自分の入札した商品が落札できるかどうかの瀬戸際になっていくに連れ、催眠状態になり、ガラクタをいっぱい落札したことのある私ですから笑

「今落札できなかったら、次の機会はいつ訪れるかわからない」

という気持ち。『影響力の正体』における典型的な「希少性」が原因です。

震災の直後、国家公務員の縁者と電力会社勤務の親友から、

「大規模な停電があるらしい。水だけは確保しておいた方がいい」

というメールをほぼ同時にもらって、水の買い占めに走ったことも有ります。
昨日の「名著を読む会」で懺悔したのですが、その時は「盲目状態」だったんですよね。
数週間後、買い占めが社会的にいかに愚かな行為かを連日マスコミでとりあげられていたのを見て、恥じ入るばかりでした。
『影響力の正体』で指摘されている「権威」による意思決定でした。「国家公務員」と「電力会社社員」からの情報だったので、鵜呑みにしてしまったわけです。「一部の人しか知らない」という意味では、情報の「希少性」に踊らされたとも言えます。

さてさて。

SF商法(催眠商法)に話を戻しましょう。

他人依存症というのでしょうか。
自分では決められず、何でもかんでも人に尋ねないではいられない状態。
あるいは、自分では清水の舞台から飛び降りることができず、人から背中を押してもらうのを待っている状態。

かっこうの「カモ」なんですよね(^^)

外から見ていて、

「ああ、この人って、いま、『カモ』状態だよなああ」

と思うことって、少なからずあります。

「カモ」モードに入っている人には、ほんっとうに、何を言ってもだめ!…なんですよね。本書に登場する

「魔の二歳児」

と同じ状態ですもの。
アドバイスすればするほど、その真逆の意思決定をとる、反対の行動をする…

あ、前述した時に、ちなみに、私も「カモ」モードの時がけっこうあります(^^)

一度でいいから、

「あれ? このセミナーって、催眠商法の第一歩? 私って絶好の「カモ」状態??」

と、疑ってみてください。
客観的に。
無理かもしれないけど。
一度だけ。

苦笑が溢れれば、あなたは勝ち組!
「カモ」モードから無事元に戻り、生き残れます笑

催眠商法の「餌食」には、

「すんでのところでならなくて済んだ」

わけです。

情報決定弱者の心の隙間に乗じて、じんわりと、しかし、確実に、圧力をかけてくるような、違法行為すれすれの営業をやっているすべての悪徳業者を、できることなら、

「根絶やし」

にしたいものですね。

1.恩義
2.整合性
3.社会的証拠
4.好意
5. 権威
6.希少性

本書の中で示されている「影響力の6つのルール」は、本来けっして悪いものではないはずです。
悪用せず、正当に活用すれば、コミュニケーションも、ビジネスも、マネジメントも、今よりもずっとスムーズになってくれるいい意味での「武器」ですよね。

今宵の「名著を読む会」に出席し、富にそう思いました。
反省する所大だったなあ。この本 笑