クライアント各社の新入社員研修が一斉にスタート。
今年は3社を担当する。
若い世代との情報交換は非常に興味深い。
意外だったのが、彼らが実名型SNS(【例】Facebook)について思った以上に消極的な参加に留まっている点である。
新入社員世代の皆さんにとって、実名型SNSは、
「就職活動でおなじみの手法」
にはなったものの、それ以外の使い方にはまだまだ消極的であり、限定的な利用に留めている方が大半である。
「竹永さんは、ビジネスでSNSを使っていらっしゃるんですよね」
「そうですよ。いろいろな広がりがあって実に重宝しています」
「トラブルとか、ないですか?」
「…??」
なるほど。
話を聞いてみると、彼らの不安の1つは実名型SNSにまつわる様々な人間関係上のトラブルにある。
SNSを通じて知り合って暫くの間は普通の友達であったのに、先方が、何かのきっかけで、ベンチャー・ビジネスを始めた途端に、勧誘のメッセージばかりが来るようになる。
無視すれば、相手の機嫌を損ねるし、拒否すれば、逆切れされる…
「社会人の方々の間にもトラブルはけっこう多いと聞いています」
「なんかあると、人間関係が壊れちゃうし。怖くて使えないですよ」
「竹永さんには2,400人のお友達がいらっしゃるが、そういう方と友だちになるのはむしろ不安。竹永さんのお友達から勧誘されたら断りにくいですし。もちろん、大半はすばらしいお友達だと思うのですが…」
なるほど。
耳の痛い話である。
彼らが私と友だちになりたがらない理由は、ジェネレーション・ギャップだけではなかったのだ。
私達「オトナ世代」のSNSの使い方を見て、
「脇が甘い」
というご批判である。
たしかにそうかも知れない。
そもそも、SNSはビジネスを成功させるためのコミュニケーション・ツールの1つに過ぎず、ビジネス成功のための絶対的な必要要件でもないし、成功の鍵ですらない。
広告か、パブリシティか、各種SP(セールス・プロモーション)か、人的販売(営業活動)か、それともSNSか…といった販売促進の手法上の1つの選択肢にすぎない。
若い世代に指摘されるまでもなく、計画性も戦略性も持たないまま、闇雲にSNSを使って営業活動を行なってもうまくいくわけがない。
そういう方は、通常のプロモーション活動・営業活動もうまくいかないだろう。
「私は飛び込み営業は全然だめなんですが、実名型SNSだといくらでも集客できるんです」
という方は稀である。
逆に、飛び込み営業が得意な人は、SNSを使ってもうまく顧客を増やすことができる。
結果として、リアルな営業がうまくできない方の駆け込み寺のようにSNSが扱われるようになったために、SNSを活用した営業はかなり歪んだ形で進化してしまった。
いわゆる「営業ごっこ」現象である。
SNSで知り合った人脈により、
「営業ごっこ」
が行われている事例はまま目にする光景である。
「SNSを通じて、A氏とB氏が知り合った。A氏がB氏にサービスを提供し、対価を受け取り、しばらくすると、B氏がA氏にサービスを提供し、対価を受け取る…という構図である」
A氏もB氏も売上は上がるが、「バーター」だから、相手への支払でチャラ。
双方とも、正味の財産の増加にはつながらない。
内輪で売上が上がるから、外に向けての営業は本当は必要だと思っていても、見て見ぬふりをしてしまう。
仲間内での仕事の回し合いなので、お互い、市場全体で最高にクオリティの高いサービスを選択しているとはいえない。お互いに「割高」な買物をしあっていることになり、市場全体でみた場合に、各々の構成員の競争力は弱体化していく。
中世ヨーロッパの「ギルド」、中世日本の「座」と似たような社会システムである。
もう少し複雑な関係で見てみよう。
「SNSを通じて、A氏・B氏・C氏・D氏・E氏が知り合った。A氏がB氏にサービスを提供し、対価を受け取り、しばらくすると、B氏がC氏にサービスを提供し、対価を受け取り、しばらくすると、C氏がD氏にサービスを提供し、対価を受け取り、しばらくすると、D氏がE氏にサービスを提供し、対価を受け取り、しばらくすると、E氏がA氏にサービスを提供し、対価を受け取る」
…という構図である。
この場合も、結局のところ、いっしょである。
「営業ごっこ」の域を出ない。
この話は時々、友人のコンサルタント仲間との飲み会での話題になる。
2人で「本当にこのままでいいのか」と憂いてしまう。
営業ごっこというのはいささか垢抜けないので、もう少しスマートに表現してみよう。
「売上循環モデル」
「閉じた売上モデル」
というべきかもしれない。
横文字で表現すれば、
「クローズド・コマース・ネットワーク(CCN)」
という表現がしっくり来る。
個々の構成員の売上は立つものの、ネットワーク全体での正味の財産はまったく増加していない。
親会社が子会社に出資し、子会社が親会社に出資する…というしくみを、わが国の会社法は厳しく規制している。見かけ上、親子会社の資本金が増えるだけの「資本の空洞化」につながるからである。
「クローズド・コマース・ネットワーク(CCN)」
は「資本の空洞化」とよく似ている。中身がないのだ。
いい大人が、CCNをもって、社会人一年生に、
「SNSはすばらしいよ。ビジネスの輪が広がるよ」
といっても、まるで説得力はない。
リンダ・グラットンの著書『ワーク・シフトー孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』によれば、これからは、
「協業」
の時代であるという。
彼女の説く協業を、私流に解釈すれば、
「地理的・物理的に離れたところにいる人間同士が、SNSあるいはそれに変わるしくみを介して、有機的に結合し、国境を超えたさまざまな問題に対し、能動的に解決しようとすること」
である。
SNSあるいはそれにかわるネットワークを通じて、ネットワークの外に向けて、大きな付加価値を作り上げていこうという気概が感じられるすばらしい言葉である。
ネットワークにおいて大切なのは、「協業」であり、その基本姿勢は、「外向き志向」と「正味の財産の増大」の2点だろう。
私は自らが主催する「ビジネス雑談サロン(雑サロ)」を知的交流の場と位置づけ、ここで知り得たこと、ここで学んだこと、ここで気づいたことを、参加者各々のビジネスで自由に利用していただきたいと考えている。
主催者である私が株式会社に所属する以上、一定の制約を設けていることは否めないが、弊社の直接的な利益というのは後回しにして、とにかくたくさんの知的交流が生まれることに重きをおいている。
この考え方は、いつもお世話になっている千種伸彰氏が主催する「名著を読む会」から学んだものであり、同会の方針は今も変わっていない。すばらしい方針である。だから毎月可能な限り、同会には出席するように心がけている。
蓄積された付加価値は、少なくとも私の場合、ネットワークの外側で「マネタイズ」するようにしている(「外向き志向」)。
具体的には、
① 雑サロで学んだことは、弊社の商品(コンサルティング・スキル、講演・セミナーのテーマ・素材)としてダイレクトに活用している。
② 雑サロに参加してくださった既存顧客やパートナー企業の構成員の方々には知的サービスをプレゼントすることで、最上級のおもてなしをすることにつながっている(これが、構成員の方々が所属する組織との次の商談につながっている)。
一見、金銭の授受がまったくない「雑サロ」により、「正味の財産の増大」につながっているのだから、不思議といえば不思議だ。
儲かっているのは弊社だけではない。
今や、メンバー間における「協業」が至る所で生まれ、参加者各々の「賞味の財産の増大」にも貢献している。
見込客企業やパートナー候補企業の構成員の方々は、雑サロに参加して、私や私のネットワークを見ながら、自らの所属する組織と弊社とが契約を結ぶべきかどうかの判断材料として使ってくださっている。
相性があえば、弊社と契約を結んで下さる場合も少なくはない。
いずれにしても、このつきあいかたは
「クローズド・コマース・ネットワーク(CCN)」
ではない。
ネットワークの外側に顧客が生まれるように、商談や売上が外へ外へと広がっていくように、常に、メンバー全員で、風向きを調整しているのかもしれない。
めざすべきは、
「オープン・コマース・ネットワーク(OCN)」
である。
株式会社としての限界があると申し上げたのは、弊社と直接競合するビジネスが派生した場合には、一定のマージンをいただくことにしているためである。
しかし、弊社の定款にまったく抵触しない形でのビジネスの輪が広がることは諸手を上げて大歓迎。勝手にやってちょうだいよ…というのが基本方針である。
その蓄積がネットワーク全体の存在価値を高めるからである。
お陰様で、次々と、連鎖的に、ビジネスの輪が広がっている。
そのほとんどは、ネットワークの外に向けてのビジネスであり、構成員間での直接の契約、金銭の授受というのはゼロではないものの、多くはない。
誤解のないように申し上げておくと、私は、
「クローズド・コマース・ネットワーク(CCN)」
を否定しているわけではない。
私自身、必要に応じて、誰かに個人的に仕事を依頼し、対価を支払う場合はある。
しかし、これが「主」になることはない。「従」であるべきだろう。
「主」はあくまでも、
「オープン・コマース・ネットワーク(OCN)」
でなくてはならない。
CCN1に対し、OCN10くらいの割合でなければ、ネットワークの存在価値はない(「営業ごっこ」に終わってしまう)。
「SNSを通じて、A氏とB氏が知り合った。A氏とB氏が議論を尽くし、あるサービスを生み出した。それをB氏の所属するX社に提案した。そのサービスはX社の弱みを改善しうるものだったので、商談は成立。一定の対価をA氏に支払ってくれた(B氏はX社の構成員だったので無報酬)」
「SNSを通じて、A氏とB氏が知り合った。A氏とB氏が議論を尽くし、あるサービスを生み出した。それをB氏のクライアントするX社に提案した。そのサービスはX社の弱みを改善しうるものだったので、商談は成立。一定の対価を2人に支払ってくれた。それを2人で貢献度合に応じて分割した」
「SNSを通じて、A氏・B氏・C氏・D氏・E氏が知り合った。A氏とB氏とC氏とD氏とE氏が議論を尽くし、あるサービスを生み出した。それをE氏のつてで、外部のX社に営業に行った。そのサービスはX社の弱みを改善しうるものだったので、商談は成立。一定の対価をE氏に支払ってくれた。それを5人で貢献度合に応じて分割した」
理想はこうではないかと思う。
昨日も今日も、「雑サロ」がご縁でつながっているメンバーとの仕事が続くが、我々の報酬はネットワークの外側から頂戴するものである。
SNSがビジネスに活用できる…と胸を張って豪語するためには、
「オープン・コマース・ネットワーク(OCN)」
の構築が大前提となる。
来週、また多くの新入社員の方々と話をする機会に恵まれている。
昼休みにでも、本稿の内容を素材に、彼らとディスカッションできれば、幸いである。