「田中の給食費を黙って机から取っちゃった者は正直に申し出なさい」

「先生はお前たちを信じている」

「正直に申し出たら、先生、怒らないから」

誰も手をあげようとしない。

「仕方がないな。じゃあ、全員、目をつぶって。目をつぶったら、全員、「猫耳」をかぶりなさい」

やれやれ。
また、「猫耳」の出番か。
人間の脳波を感知し、耳が動くというしくみの玩具だ。

http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/085/85718/

 

この一見アホらしいおもちゃ。
21世紀初頭に発明されて以来、学校のホームルームなどで、やむなく、

「犯人探し」

をしなければいけなくなった局面で重用されている。
現在、学校教育に導入されているのは、装着者が、うそをついたり、やましい心を持ったりしている場合にのみ、耳がピコピコと動くというカスタマイズ・モデルである。

「よおし、目を開けろ。もういいぞ」

僕を含むクラスメート全員、不機嫌そうに目を開ける。
またしても、犯人は即座にわかったらしい。

「猫耳」が導入されるまでの時代、犯人が名乗りをあげない限り、ホームルームが延々と何時間も続いていたというから、驚きでである。
かといって、さすがに嘘発見機の導入は、教育の現場という体面上、ためらわれたという。
「猫耳」なら、情報技術の勉強道具という建前論が使えるし、かわいらしいおもちゃということもあり、導入に際しての心理的な抵抗感も小さくて済んだ。
「猫の手を借りたい」ほど忙しかったこの時代の教育現場を、何と「猫の耳」が救ったわけである。

ああ。
一度でいいから、

「先生はお前たちを信じている」

が口癖の担任教師にも「猫耳」をかぶせてみたいものだ。
彼のかぶった猫耳がピコピコと動く様を見ることができたら、学校生活最大の思い出になること、間違いないのだ。