自然科学における代表的な法則に「万有引力の法則」がある。
万有引力とは、すべての物体の間に作用する引力であり、その大きさは2つの物体の質量の積に比例し距離の2乗に反比例するというものである。
質量の大きな物質に働く万有引力が大きく、小さな物質に働く万有引力が小さくなる。
りんごに働く万有引力は無視できるほど小さいが、地球に働く万有引力は非常に大きくなる。
この現象は、自然科学(ニュートン力学)の世界だけではなく、経営学の世界でも確認することができる。
たとえば、
① 売り場面積の大きな小売店の顧客吸引力は強くなる
② 大企業は中小企業よりもはるかに人材を採用しやすい
③ 上場企業のブランド力はとてつもなく大きな価値を有する
…等々。
枚挙にいとまがない。
組織の経営資源が大きくなれば、さまざまな点で強力な引力が生じるのである。
大きな組織ほど強くなるので、ここでは、この引力を組織間引力と呼ぼう。
しかし。
組織間には、引力のみならず、斥力も働く。
同一法人、同一グループに属する組織の間で、いつもいつも強力な引力が働くとは限らないのである(ニュートンの万有引力とは大きく異る性質である)
。
企業内競合。
グループ内競合。
部門長同士の足の引っ張り合い。
担当者の出世競争。
面子。
プライド。
こういった要因が複雑に絡み合い、マイナスの組織間引力、すなわち、組織間斥力が働いてしまうのである。
私が企業A社に所属するα事業部とβ事業部とおつきあいすることになったとしよう。
私からすれば、両事業部は、根っこを同じくする同胞(はらから)であるように見えるのだが、これが案外、グループ内では
「水と油」
「呉越同舟」
だったりする(【例】α事業部はβ事業部に対し、同じ時期に競合商品を発売するなど、露骨な嫌がらせを行う)。
そこまではいかなくても、
「日ソ不可侵条約」
のような状態担っている場合もある。
相互に対して中立の立場をとるというものである(【例】α事業部が困っていても、β事業部が積極的に救いの手を差し伸べることはないのである)。
A社の社外コンサルタントである私が、
「α事業部とβ事業部が手を組んで相互補完したら、とてつもないシナジー(相互作用)を発揮するだろうに」
と強く思っていても、あるいは、そう提案しても、御両人(α事業部・β事業部)はどこ吹く風…といったケースが実に多いのである。
この組織間斥力。
具体的な要因(原因)までわかっているにもかかわらず、けっこうやっかいである。
「わかっちゃいるけど、弱められない」
という組織が多いのだ。
特に、その地域のナンバー1企業や、その事業領域におけるガリバー企業ほど、組織間斥力が大きくなる傾向がある。
組織間で一致団結してことに当たらなくても、当面は潰れる心配がないという安心感が働くからである。
「外敵の台頭を待つしかないか…」
そう思って、治療を諦めている当該組織の構成員も多い。
自らの事業領域に強力なライバルが台頭してくれば、同一法人内・同一グループ内の組織間で足の引っ張り合いをしている余裕などなくなるからである。
先ほどの事例に戻れば、α事業部とβ事業部が私の提案を受け入れてくれるのは、強力なライバルが出現し、市場を席巻し始めた後なのだ。
「ほれ見たことか。今更手遅れだ」
…喉元まででかかっていても、この一言を飲み込み、なんとか最良の手段を講じるのが、私達コンサルタントの役割だと思うが、やはり、症状が進行してからの治療よりは、予防のお手伝いをしたいと思う。
ハッキング対策の専門家などが、ターゲットとなる企業をハッキングし、
「お宅の会社、セキュリティがまるでなっちゃいませんよ」
と悟らせ、契約を結ぶ…という話があるが、それに近いことはできないだろうか。
脱法行為をしたいということではない(念のため)。
本当にライバルが台頭してくる前に、危機感を持って備えていただきたいのだ。
残念ながら、なかなかうまいアイディアが湧いてこないが、諦めずに、訴え続けていきたいと思う。
組織間斥力問題ではないのだが、最近、クライアント企業で、そう簡単には変わらないだろうと思っていたある社内ルールが、私が主張していた方向に大きく変更された。
私の影響によるものではない。社員の皆さんのたゆまぬ「署名活動」(比喩表現である。そんなようなものという意味)の結果が、トップあるいは本社の主管部署を動かしたのかもしれない。
何事も、簡単に諦めてはいけないのだ。
さてさて。
組織間斥力の法則に立ち向かう良い方法はないものだろうか。