今夜の夕焼けは美しかったですね。

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まるで大昔の円谷プロの特撮映画に出てくるような美しくも幻想的な夕焼け。

「いちばんぼおおしい、みいつけた〜」

「お、坊や、あれだね。あの金色の星…」

「うん。とってもきれいだね、パパ」

「坊や、あれは、『ウルトラの星』だよ」

「…」

「聞こえなかったかな。あれは、パパが子供の頃に見たウルトラの…」

「パパ、何言っているの?」

「…」

「あの星は、金星。ラテン語ではVenus(ウェヌス)、英語ではVenus(ヴィーナス)と表記される、太陽系第二惑星だよ。
金星は、地球型惑星であり、太陽系内で大きさと平均密度、質量などが最も地球に似た惑星であるため、『地球の姉妹惑星』と表現されることもあるんだよ。太陽系の惑星の中で最も真円に近い公転軌道を持っていることでも有名でしょう。地球から見ると、金星は明け方と夕方にのみ観測でき、太陽、月についで明るく見える星であることから、昔の人は、明け方に見えるのが『明けの明星』、夕方に見えるのが『宵の明星』として別々に扱っていたんだよ。これは金星が地球よりも太陽に近い内惑星であるため、太陽からあまり離れず、太陽がまだ隠れている薄暗い明け方と夕刻のみに観察できるために起こる現象で、第一番惑星である水星でも同様の現象が確認できるんだよ。太陽との最大離角は約47度と、水星の倍近くあるため、最大離角時には日の出前や日没後3時間程度眺めることができるので、今日もこうして、一番星として見つけることができたんだ。」

「…」

そうだった。
また、忘れていた。

この時代。子供たちは、皆、SAR(Super Augmented Reality;超拡張現実)機能を備えたコンタクト・レンズを装着しているのだった。
彼らが知りたいと頭の中で望めば、それに関するあらゆるクラウド上の情報は、コンタクト・レンズ上に表記され、あっという間に知ることができるのだった。

「一番星の正体」と坊やが望めば、「金星」に関するあらゆる文字情報、数値データ、静止画、動画をすべて見ることができる。時間があれば、あたかも、金星旅行に行ったかのような体験もすることができる。

21世紀初頭に話題となったAR(Augmented Reality;拡張現実)とは比べ物にならないほどの高機能である。

「ねえ。パパ、わかった? 聞いてるの??」

「ああ、坊やはすごいな。なんでも知っているだな」

そういえば、21世紀初頭までは、親が子供に「物を教えていた」そうだが、今の時代、そんな必要はなくなったのだった。
ついつい、そのことを忘れて、この調子だ。
結局、いつも坊やにしてやられてしまう。
「ウルトラの星」どころか、夢もへったくれもない時代のだ。

「あ、パパ、夏の大三角形だ。東の空に。ほら…」

坊やの情報は常に正確だ。

この季節。東の空には夏の大三角形が登ってくる。
夏の第三角形を構成する星座や一等星にまつわる話なら、私でもできるのだが、その必要はないだろう。
この瞬間にも、彼のコンタクトレンズが、必要な情報(星座にまつわるギリシア神話、一等星の等級、地球からの距離、織姫・彦星の伝説など)を、事細かに映し出しているのだから。