私の知る限り、
「セミナーを開催したい」
と考えている専門家の方は非常に多いです。
多くの方は見込み客の発見やプロモーションのためにセミナーを開催されるようです。
中には、そこから直接的な売上や利益を上げたいという方も大勢いらっしゃいます。
しかし。
現実には、人を集めてセミナーを行うというのはたいへんなことです。
さまざまなリスクが伴います。
① まずは、主催者・講演者が必ず場所をとり、当日はそこで行わなければならない
② 天変地異や交通トラブル等の不可抗力には太刀打ちできない
③ 用意した会場が小さすぎる場合もあるし、大きすぎる場合もある(聞き手が集まりすぎる場合も、集まらなすぎる場合も対処に追われる)
④ 送付しておいたはずの備品や資料が届いていない可能性がある
⑤ 聞き手のニーズにあった話ができなくても、「我慢して」聴いてもらわなければならなくなる
⑥ ぞろぞろと途中退席者がでるようであれば、計り知れない心理的・マーケティング的打撃を受ける
他にもたくさんのリスクがあります。
これらのリスクがあるのに、なぜ、人はセミナーを開きたがるのでしょうか。
答えは簡単です。
「成功すると気持ちがいい」
からです。
拍手喝采、サインをせがまれたり、写真をごいっしょに…といわれることもあります。
直後のFacebookやTwitterへのエールのような書き込み、お礼のメールや直筆の手紙。
関係者からのねぎらいの言葉。
たとえ、ちょっと失敗していても、仲間内からは
「結果オーライ。がんばったよ」
となります。
私が凹んでいても、うちの事務スタッフたちに
「よかったですよ。成功ですよ」
と言われれば、立ち直れます笑
文化祭の直後。プロジェクトの打ち上げの雰囲気。
これを味わうことができるのです。
で、
これが人間の判断を狂わせるわけです。
「ああ、セミナーをやってよかった。そんなに儲からなくても充実感があったし、よい経験ができた」
確かにそうかも知れません。
1回ならいいでしょう。
しかし、半年に1回、3ヶ月に1回、毎月、毎週、毎日…
できますか?
できませんよね。
そういう
「充実感」
目的のセミナーは、長続きしませんし、高頻度で行うことができない…つまり、結果として販促効果もさほどはないということになります。
さらに。
リスクのほかにもデメリットがあります。
最大のデメリットは、「減価償却効果」です。
セミナーは、フローでありストックにならないということです。お客さんの記憶の最高潮はセミナー終了直後。以降、どんどん、「減価償却」がはじまり、数週間後にはすっかりと忘れられてしまうのです。
また、セミナーがよかったことを後日人に伝えるのも難しいです。
「私のセミナーは最高なんです」
「私のセミナーに来てくれた方は皆さん、満足してお帰りになります」
…この言葉を鵜呑みにする方はいないでしょう(セミナーの再現困難性)。
「私、歌がうまいんです」
と本人が言っても、歌ってみなければ、誰も信用しません(当然ながら)。
話したほうが自己満足に浸っている間に、聞いたほうはどんどん忘れていく…
これが世の中の多くのセミナーの実態です。
単価も低くなりました。
かりに、2時間で1人3,000円のセミナーを開催し、30人の方が集まっても、売上は100,000円に届きません。
会場費と集客のための販促費、資料作成費や当日の事務手続き費用を引いたら、ほとんどの場合、利益は「雀の涙」です。
山口と竹永でリレーで行なっている中小企業診断士の理論政策更新研修は、法定という強制力のある研修ですが、概ねどの団体でも料金は一律となっており、6,000円です。
30人集まって下さっても、売上は200,000円に届きません。
これは、講師やコンテンツの問題というよりも、世の中に、YouTubeを中心とした無料での動画情報が溢れかえるようになったことによる社会的・構造的な問題と見るべきでしょう。
卑近な話で恐縮ですが、中小企業診断士に合格した15年以上前のほうが、いわゆる専門家の「話」の単価はずっと高かったのです。
現在は、社会のしくみがかわり、有名大学が自社のコンテンツをどんどん無料公開する
「オープン・カレッジ化」
が進んだため、知的財産全体にその余波が広がり、「知識」をただ「教える」という、昔ながらのそのままの方法では、お金を稼ぐのはとても難しくなっているのです。
にもかかわらず、麻薬のような
「充実感」
が皆さんをセミナー開催に駆り立てているのです。
本を出す、セミナーを開催している…いずれも、専門家の象徴的な仕事であり、第三者から見れば「知的で格好いい仕事」に見えます。
しかし、方法論はかなり複雑化しています。
まず、業界の第一人者が無料でガンガンと超・わかりやすい言葉で、いろいろなことを動画で話していますから、それに打ち勝つだけの、商品的な
「差別化」
が必要になります。
一言で言えば、
「あなたでなければ話せない話」
…でないと、聞き手にとっては、セミナーに行く意味がないのです。
つまり、一般論や概論のセミナーというのは、ことごとく、今後、オミットされていきます。淘汰されていきます。ことごとく、動画配信に敗れ去ります。
特殊で、おもしろくて、希少で、他では聞けない話。
コンテンツ(話の内容)がこの条件を満たしていない限り、スタートラインにはつけないということです。
「セミナーをやりたいんですが、どうやって開催すればいいでしょうか?」
後輩の中小企業診断士によく受ける質問です。
「誰に、どんな話をしたいの?」
「あ、それはまだこれから。まずは集客の方法を考えているんです」
おいおい。
順番が逆だろう…ということです。
経営戦略論における古典的なフレームワークに
「ドメイン(事業領域)」
というのがあります。
ドメイン(事業領域)には3つの要素があります。
① 標的顧客 誰に売るのか、誰に買っていただくのか
② 顧客機能 顧客に提供できる機能はなんであるか、つまり、売るべき製品やサービスは何か
③ 経営資源 ①②を実現するために、企業はどんな資源を具備すべきか
この3つ。
別に経営学に長じている方でなくても、ドメイン(事業領域)の3つが大切だといえば、
「当たり前だ」
と思われるはずです。
「誰に、何を、どう売るか」
という話です。
セミナーでいえば、
「誰に、何を、どう伝えるか」
という話になります。
標的顧客や顧客機能(セミナーのコンテンツ)を決めることができなければ、そこから先には進みません。
特に、顧客機能(セミナーのコンテンツ)を作るまでの作業は、
「産みの苦しみ」
です。膨大な時間と実験・経験・仮説検証の積み上げであるからこそ、
「あなたにしか話せない内容」
になるわけです。
2,3日でちゃっちゃっと作ったPowerPointの資料で1時間話す…というのが許されるのは、社内の勉強会か無料の勉強会の場合だけです。
有料になれば、たとえ、それが、「1,000円」であっても、顧客は一定の効果をそのセミナーに要求してきます。
皆さんはこう反論されるかもしれません。
「来て下さった皆さん、よかったといってくださいましたよ」
それはそういいます。
大人の世界ですから。
でも、アンケートの内容と心のなかは裏腹という場合が多いでしょう。
恐ろしいですが、それが現実なのです。
「戦いは常に非情さ…」
と、かのシャア・アズナブル(ガンダムの敵役)も言っているじゃあないですか。
仲間内で研究会的にやっているセミナーや実験的に行なっているテスト・マーケティング型のセミナーはそれでもよいのです。
私もよく、新メニューの場合、不完全な内容を身内に晒すのは格好悪いですが、
「すみません。荒くて。一つよろしく。忌憚のないご意見を」
ということで聴いてもらうことはあります。
しかし。
DMやネットで不特定多数の人間を集めて開催する場合、また、それが高額になればなるほど、しっかりとした
「差別化」
が必要になるのです。
私自身は、セミナーはできれば、開催しないで食べていきたいと考えています。
セミナーは回数が重なれば、体力的にもしんどくなります。ビジネスの理想は、なんといっても、不労所得‥笑
これを目指して、皆さん、がんばっているわけです。
先ほどの例えに則れば、私も相当の
「麻薬患者」
です。拍手喝采やよいアンケートには私も弱い。
でも。
何となくよかったセミナーでは価値がないのです。
弊社社長・山口がよく
「うまい研修である必要はない。すごい研修であることに価値がある」
といいますが、私もまったくもって同感です。
たとえば、ある講師のセミナーに100人の聞き手が10点満点のアンケートで全員が9をつけたとします。
平均だけを見る主催者であれば、「いいじゃない。平均は9だよ。すごいよ」というかもしれません。
しかし、これでは失敗。
大失敗です。
なぜか?
1人も
「10点満点」
をつけた人がいないからです。
皆さんにとって大切なのは、1人でも2人でも
「10点満点」
をつけてくれた方。
なぜなら、彼らは皆さんの顧客になってくれるからです。
あるいは、強力な支持者・サポーター・伝道者・エバンジェリストとなってくれます。
ですから、収益につながります。
でも、9点じゃあ、そうはなりません。
残念ながら、1円にもならないセミナーなのです。不労所得の対局。ただ働きなのです。
そう考えると、
「まあよかった」
「そこそこ成功した」
…そういったセミナーを開催するくらいなら、いっそ、開催しないほうがよいのです。
ご自身のブランド・イメージを崩さないほうが得なのです。
最近のマーケティングのキーワードは
「エクセレント」
です。
エクセレントとは、10点満点…と同義です。最高だ!ということです。
次回につながる売り方とはエクセレントな売り方であり、次回につながるセミナーとはエクセレントなセミナーなのです。
私が現在担当している研修や講義は、恐縮ながら、なかなか他の方あるいは他社が真似できないものだと思います。
DREA、動機づけ地形図モデル、マネジリアル・クライミング、ドラッカーでのホワイトカフェ・ワールド・カフェ、ホワイトカフェを採用した日経マーケティング・スクール、Facebookを用いたプレゼンテーション講座…
かなり独自なラインナップになっています。
簡単には真似できないと思います(模倣困難性)。
ビジネス雑談サロンは、セミナーではありませんが、あれだって、結構たいへんだったのです。最初の数回は試行錯誤の連続。40回やってようやく、最近は、1つのスタイルに到達しました。でも、道のりは平坦ではありませんでした。
簡単そうに見えて、全員のアイディアをバランスよく引き出し、まとめていくのは、相当の経験が必要です(ファシリテーターが途中からガンガン一方的に話してしまうワークショップはけっこうありますが、あれでは、途中からセミナーになってしまい、サロン本来の姿ではなくなってしまいますからね)。
雑サロの場合、ファシリテーターは常に客観的な視点で、お客様を見ていなければならないのです。
差別化とイノベーション。
私は、これだけが、自分の売上を保証してくれると思いますから、ずっと、その点だけを考えてきました。
先日も担当した日経ビジネススクールでのマーケティングの基礎論。
教科書通りのマーケティングなどやりません。
SNS、自炊、ホワイトボード、動画…こういったものをどう組み合わせると、プロモーションが可能になるか、1日の間に徹底的に雑談を挟み込んでいきます。
これなら人が真似できないだろう…という差別化。
これなら人が度肝をぬくだろう…というイノベーション。
小さなことでもよいので、常にこれを考えながら、皆さんご自身のコンテンツを作り上げてください。
私はもう15年もこんなことを考えてやって来ましたので、そういうコンテンツ(手法も含めて)は随分な量に増えました。
キャリアのない方や開業したばかりの方が、いきなり、たくさんのコンテンツを‥というわけにはいかないでしょうから(時間圧縮の不経済)、まずはたった1つでよいので、自分だけの
「必殺技」
を作り上げてください。
それが、何度聴いてもおもしろいと思われるような古典落語のようなコンテンツであれば、申し分ありません。
それができあがったら、それ以外のコンテンツ、つまり、他の方が話しても成立するような内容は、思い切って
「無料」
で
「動画」
に載っけてしまいましょう。
ここから先は、
「伝え方のうまさ」
の勝負になります。
業界の大御所よりも、自分の恩師よりも、わかりやすく、おもしろく、手をかけて、図表化して、解説し、それがおもしろければ、そういった大御所や恩師から、
「顧客を奪い取る」
ことができるのです。
「通常のテーマでもこれだけわかりやすいんだから、この先生のオリジナル・メニュー…これは有料のセミナーらしいが…はきっと素晴らしいに違いない。申し込んでみよう」
となります。
もちろん、この有料コンテンツがセミナーである必要もないかもしれません。
有料動画…課金できるしくみがあれば…これでよいのです。
もっとも、多くの専門家の方々は、一度は、顧客とリアルに会って、顧問業務やコンサルティング業務に結び付けたいと思われているでしょうから、その場合は、ライブなセミナーの開催が(たとえ、リスクがあっても)望ましいでしょうね。
前述した、セミナーにおける時間的・空間的制限と代替がきかないことに対するリスクについての問題等は、コンサルタントならば誰もが感じている問題であり、私も悩んでいる一人です。
その解決の1つの方法が、動画の発信でした。
これはリスクが少ないですし、動画には、資産価値(蓄積効果)があります。つまり、不労所得につながる可能性があるのです。
動画配信のメリットをまとめてみましょう。
① 主催者・講演者が場所をとる必要もなければ、当日、所定の場所に行く必要もない
② 天変地異や交通トラブル等の不可抗力の影響を受けない
③ 会場の人数、集客のための努力等がほぼ不要になる
④ 備品や資料に対する物理的リスクがなくなる
⑤ 聞き手はニーズに合わない話なら飛ばしたり、視聴をやめることができるので、聞き手を「我慢」させる必要がない
⑥ 途中退出者を見送るような、心理的・マーケティング的打撃を追うことはない
…これだけとっても、動画がセミナーに比べていかに優れた手法であるかがわかります。
前述したとおり、セミナーやイベントは終わった瞬間の爽快感・満足感に騙されて、「やってよかった」と思ってしまうのですが、たまたまトラブルがなかっただけのことであるかもしれないし、終わった瞬間から人々の記憶は減価償却していきます。
後で、口で、どんなに「いい研修だった」「いいイベントだった」「いいセミナーだった」といっても、それを証明するのは用意なことではありません(セミナーの再現困難性)。
冷静になると、思っているよりも、「功少なし」なのです。
動画は違います。蓄積されると「武器」になります。他社は簡単に追いつけませんから「持続的競争優位の源泉」になります。私もまだFacebookで50本、YouTubeで50本、あわせて100本ですが、これがあと3年くらいで500とか1,000本になったら、相当な実績となります。
ライバルは簡単には追いつくことができなくなりますし、ライバルが増やしてくれば、こちらはもっとたくさんとるための対策を講じることができます。
城は攻めるより守るほうが楽なのです。
動画配信は私たちの営業スタイルそのものを変革させるかもしれません。
最近は、いわゆる見込客訪問というのを、私はほとんどやりません。
「YouTubeの動画を見ていただき、興味があったら、再度ご連絡ください」
とお願いしてしまいます。
後日、
「竹永さん、動画拝見しました」
と言ってご連絡くだされば、そこから初めて商談がスタートします。
私の動画を何本も見て下さっている方であれば、その後の商談はかなりスムーズになります。
見ていただけない方はビジネス上はご縁がなかったわkで、これはこれでしかたありません。
少なくとも、
「見込客の選別」
ができるようになったのは、時間的にそうとう負担が減りました。
15分くらいある長い動画を何本もご覧になっている方は特に有力な見込客になります。ありがたいことです。私の考え方や私の話の仕方、私の仕事の仕方に共感してくださっているからです。
そうなれば、マーケティングだろうが、HRMだろうが、たいていは商談はうまく行きます。
「サービスは人なり」
の典型です。
コストゼロ(あ、初期投資として、iPhoneやAndroid。ホワイトボードも購入してください m(_ _)m)。
iPhoneやiPadで最近使えるようになったアプリ「iMovie」は歴史に残る名アプリですね。
仕事革命です。
5分間の動画を編集するのに、モノの数分。京浜東北線の社内で立ったままでできてしまいます。
これはすごい。本当にすごい。
この時代に生まれてよかったと思いますし、今の若い世代はこういったアプリを使って情報発信ができることが羨ましいです。
もう一歩進んで、
「携帯型ブロードキャスター」
のようなツールが出てくればベストですね。
iPhoneやiPadはかなり近いのですが、もう電話機能はいらないので、その代わりに、もっと高性能のマイクが付いた端末がほしいです。
現在のiPhoneやiPadでもかなりいい音でとれるのは間違いないのですが、BGMをかぶせると、とたんに、メインの音声がしょぼいことが判明してしまいます。BGMはプロっぽいのに、講師の声がしょぼい…やっぱり、音声は重要です。
これに対応した端末が登場することを切に願います。iPadの変形で良いのですが…
道具はこれだけ。本当にこれだけで十分です。
後は、必要なのは、スキマ時間と決意だけです。