「愛していると言ってよ」

「え?」

「愛していると言って!」

「いつも言っているじゃないか」

「ええええ? 最近全然言ってくれない。もう私への気持ちは冷めてしまったのね」

「そんなことないよ。ちゃんと言っているよ」

「うそよ」

「本当だよ」

「うそよ。だって、今月に入ってからは0回、先月は2回、先々月は17回、その前の付きは26回。平均値を見ると、今年に入ってからの月平均は25.5回よ。昨年の31.6回、一昨年の48.9回を大幅に下回っているわ」

「本当だ」

「累計欄を見てよ。私に初めて会ってから、あなた、昨日までに2,344回『愛してる』って言ってくれたのよ。今日で、2,345回目なのよ。語呂がいいでしょう。」

「そうなのか」

「でしょう? 今や、あなたの発言はすべてクラウド上に残る時代。昔のように、「言った、言わないの水掛け論」は通用しない時代なのよ」

「わかった。悪かったよ。『ア・イ・シ・テ・ル』」

「やっと言ってくれたわね」

やれやれ。音声入力システムを常備するようになって以来、仕事の生産性は大いに高まったが、何事にも、副作用があるものだ。しかも、今でもちゃんとベッドでは「愛している」とつぶやいているのだが、その時間はマイクをはずしているために、クラウド上はカウントされていない。やれやれだ。いっそ、体内にマイクを埋め込む時代が来てくれれば、こんな思いはしなくて済むのだが…

…喉まで出かかった愚痴をぐっと押し殺しつつ。彼は、うれしそうに飛びついてきた彼女をしっかりと抱きしめた。