<前回の続き>
以前に経営戦略策定についてのセミナーを行った東京のある企業の本社マネジャーから連絡を頂きました。
「東北のある支店で、昨年、竹永さんから教わったSWOT分析やドメインの考え方がたいへん根付いているようなんです。いっしょに視察にいきましょう」
当時、まだ、駆け出しのコンサルタントだった私にとってとてもうれしいお誘い。
自分の仕事の成果を確認できる機会など、そうはありません。
「是非是非。ごいっしょに」
2人で東北新幹線で、当該支店に移動。
支店内会議に出席させていただきました。
支店長が登場。
今日は、半年ぶりに、自店の戦略見直しについて、メンバー全員で考えるとのこと。
支店長がメンバーに指示を出します。
「さあ、じゃあ、皆さん、左側のホワイトボードには、うちの支店の「いいところ」を、右側のホワイトボードには、うちの支店の「改善すべきところ」を、手元の付箋紙に書いて、アップしてください〜」
一斉に作業を始めるメンバーの皆さん。
全員、楽しそうに、ペンで付箋紙に自分の気づいたことをどんどん書きこんでいきます。
90%は、1年前に私が導入研修でお話した通りのやり方。
しかし。
10%が違う。それが大きい。とても大きい。
「SWOT分析」
ではない。
この支店では、
「いいところ」と「悪いところ」の2元論に
「単純化」
されているのます。
内部環境、外部環境、強み、弱み、機会、脅威…こんなややこしい経営学用語は一言も出てこない。
みんな、楽しそうに、自分の会社の
「いいところ」「悪いところ」
をあげています。
支店長いわく
「私が気づかないような現場の視点で、いろいろアイディアが出てきて助かっています。本当、昨年、竹永さんに教えていただいた手法はとても役に立っています」
「ありがとうございます…」
「ただね、竹永さんの教えてくれたSWOT分析、とてもよかったのだけれど、少し難しかったので、私の方でアレンジして、「いいこと」「改善すべきこと」の2つに分けてしまったんですよ。そうしたら、みんな、楽しく、アイディアや気づいたことを書いてくれるようになったんです」
「…」
本来、喜ぶべきことです。
東北の小さな支店で全員参加型の戦略策定ミーティングが行われるようになり、それが定着した。
きっかけは私の研修。
自分の仕事の成果を確認するために、訪問した。
そのはずだったのです。
<次回に続く>
しかし、待っていたのは予想外の展開。
素直に喜べないくらいの『天啓』がありました。
「俺は今まで何をやっていたんだろう」
経営学を学び、それを人に伝え、いかに実践してもらうか。
中小企業診断士の資格をとり、数年(当時)。
そのことだけを考えてきたつもりです。
人よりもわかりやすく、人よりも噛み砕いて、人よりも丁寧に伝えてきたつもりです。
しかし、私のやっていたことは、単なる
「受け売り」
にすぎなかったのです。
偉い学者(今回の例で言えば、SWOTの発明者はアルバート・ハンフリー教授)の言ったことを、ただそのまま伝えていただけ。
全然、自分のオリジナリティがないのです。
ブレインストリーミング法の創始者アレックス・オズボーンが提唱するアイディア創造法にナイン・チェックリストがあります。
(1)転用
そのままで新用途はないか、他への使い道はないか、他分野へ適用はないか
(2)応用
似たものはないか、何かの模倣はできないか、他からヒントを得ることはできないか
(3)変更
意味、色、働き、音、匂い、様式、型を変えることはできないか
(4)拡大
追加、時間拡張、頻度、強度、高さ、長さ、価値、材料、誇張できないか
(5)縮小
減少する、小型化する、濃縮する、低くする、短くする、軽くする、省略する、分割するという方向は考えられないか
(6)代用
人を、物を、材料を、素材を、製法を、動力を、場所を、設備を、店舗を変更できないか
(7)再利用
要素を、型を、配置を、順序を、因果を、ペースを再利用できないか
(8)逆転
反転、前後転、左右転、上下転、順番転、役割転換できないか
(9)結合
ハイブリッド、ブレンド化、合体、ユニット化、セット化できないか
単純に、これに当てはめたって、努力していれば、「(5)縮小」という方法から「単純化」を思いついたかもしれません。
SWOT分析のような4分割分析の場合、どうしても、軸の話をしなければならない。また、各セルの特性等を話さなければならない。興味のある人には面白いでしょうが、大多数の方にはどうでもいい話です。
「2元論」はとてもシンプル。
誰でもわかります。なんのストレスもなく、その場でスタートできます。
会議前にSWOT分析の理論のおさらいの時間など必要ありません。
これでいいのです。これで十分なのです。
当時の私。
自分でアレンジし、取引先に一番いい状態にしてから、導入する…という視点はまったく欠如していました。
今思えばお恥ずかしい限りです。
「小難しい理屈をいかにして分かりやすくアレンジし、当該組織に一番あった形で伝えていくにはどうすればいいか。これからはそれを考えていこう」
ようやく、自分のミッション(使命)が見えてきた1日。
今のように電子データや電子カレンダーがないので、正確な期日はわかりません。
しかし、この日は私にとっての「サラダ記念日」ならぬ「コンサルティング記念日」になったのです。
そのことだけは間違いありません。