中小企業診断士の講師としての仕事は、おそらくは私のライフ・ワークになります。
「資格試験対策講座の講師はもう卒業する」
「自分はコンサルタント業に専念する」
という同業者(中小企業診断士の先輩・同期・後輩)が多いのですが、私はマイノリティ。
どうしても、この受験対策講座の緊張感に満ちた「雰囲気」が好きなのです。
よく、ハードボイルドな映画に、
「硝煙の匂いが忘れられない…」
とつぶやいて、戦場に戻る傭兵の主人公が出てきますが、イメージとしては、きっと、あんな感じなのでしょう笑
一旦受験から離れても、長〜い楕円軌道を描き、彗星のごとく、また、この仕事に戻ってしまう…それが私の「生きる道」「天職」なのだと、改めて思います。
TBCの木下社長を始め、弊社・社長の山口(TBC統括講師)、鳥島さん、矢田さん、前川さんも…おそらく、皆、
「受験対策講座が好き」
なメンバーです。
そして、私もその一人。
いい歳して、往年のハンドル・ネーム「炎の専任講師」を復活採用。ブランディング戦略の見直しをはかったばかりですからねえ。
さて、私がライフ・ワークに選んだ中小企業診断士の受験対策講座の業務は次の2つに大別されます。
① 個人向け講座(TBC様や産業能率大学様に私どもが出講し、「個人」の受講生様向けに講座を行うもの。通信・通学、どちらのタイプもあります)
② 法人向け講座(弊社への直接受注またはTBC様等からのご依頼に基づき、依頼主法人にお伺いし、直接、社員の方向けに講座を開催するもの。教材はTBC受験研究会に供給していただいています)
①②は内容的にはさほど大きな差がないのですが、講師として難しさを感じるのは②「法人向け講座」のほうです。
理由は簡単。
②の「法人向け講座」、つまり、「社内受験対策講座」の場合、受講者(社員)の方々の経済的・時間的負担は小さいので、
「本気度」
の点で、①の「個人向け講座」との間に大きな差がついてしまうからです。
特に100%法人負担、個人負担0%の場合には、正直、ほとんど、合格は期待できません。
ですから、私どもが、人事部その他のセクションの方からご依頼をいただき、「社内診断士講座」を立ち上げる場合には、あえて
「社員の皆様への金銭的ご負担」
を可能なかぎりお願いしています。
もちろん、人事部の皆さんと相談しながら、無理のない金額を設定させていただくのですが、
「うちは社員には負担をさせたくないので、全額会社でお支払いします」
という場合には、どんなに他の条件がよいご商談であっても、
「お断り」
申し上げています。
結果が出ないとわかっている仕事をプロとしてお引き受けすることはできないからです。企画・運営等でお骨折りいただく人事のご担当の方にもご迷惑をおかけすることは目に見えているからです。
社内受験対策講座とはいえ、社員お一人お一人がご負担いただけば、
「本気度」
は変わってきます(全額個人負担の個人向け講座には及ばないまでも、ずいぶんと意識は変わります)。
ところで。
通常の人事研修と、社内受験対策講座では、1つ決定的な違いがあります。
通常の人事研修の場合、いわゆる効果測定は難しいのが普通です。
研修終了後のアンケートが
「良好」
「クレームなし」
であれば、我々もホッとしますし、人事部のご担当にもホッとしていただけます。しかし、本当のところの効果測定は難しいものです。
しかし、社内受験対策講座は、当日のアンケートの良否云々よりも、
「合否」
により、その真価は明白に決まってしまいます。
効果測定極めて容易です。
ですから、「社内受験対策講座」は、我々講師にとってもリスクの大きな仕事ですし、それ以上に、人事部のご担当の皆様には、大きな心理的負担をおかけしています。
いろいろ、お骨折りいただき、本当に受験される社員・同僚のことを思い、東奔西走されているお姿を見るたびに、
「なんとか、ご期待にお答えしたい」
と、我々も動機づけられます。
企画を担当された担当マネジャーや印鑑を快く押してくださった担当役員の皆さんにとっても、同様のリスクが生じます。
社内で企画を通すまでには相当なご苦労があると想像いたします。どこの企業でも、意思決定までに本当に長い時間がかかるからです。
当然だと思います。
ところが、いざ、半年から1年に及ぶ講座がスタートすると(概ね、どこの企業でも、2週〜1ヶ月に1度のペース)、受講される方のモチベーションは徐々に落ちていきます。
個人向け講座の場合、個人的な事情で切羽詰まって申し込んだ…といった方が少なからずいらっしゃり、こういった方の声が、他の受験生にも好影響を及ぼし、緊張感が維持されます。
ところが、安定した法人の中にいらっしゃる社員の方のみから構成される社内受験対策講座の場合、このような緊張感は生じにくいのです。
個人負担もいわば埋没原価。金額もそれほど大きくないので、どうしても、前述した
「本気度」
の点で、差が生じてしまいます。
社内受験対策講座当日。
我々が教壇に経つと眼に入ってくるのは、
「折り目のないテキスト」
予習用DVDもまだ見ていない…という方が、大勢いらっしゃるのも残念です(というより、もったいないです)。
山口や鳥島、私等の講師が、初回のオリエンテーション講座で
「これだけはやってきていただきたい」
と口がすっぱくなるほど申し上げる、予習作業についてのコミットメントは、なかなか遵守していただけません(個人向け講座の場合であれば、テキストはボロボロ、付箋は数知れず、DVDは講師の冗談まで覚えている…という方が大半の時期なのです)。
残り1ヶ月を切って、まだ手の付いていない科目(【例】DVD、テキストが真っさらのまま)がある…という状態は、正直、個人向け講座の方が聞いたら
「ありえない」
「もったいない」
と目を丸くされる話です。
もちろん、資格試験に対する温度差はさまざま。
想いや執着心、こだわりの度合いも人によりいろいろです。
ご自身が挫折したり、不合格になるのは、自己責任です。
ただし。
個人向け講座と違い、法人向け講座に自らエントリーされた方々には、もう1つ、ご自身が気づいていない、大きな
「責任」
があります。
つまり、ご自分たちの「代」の結果が散々なものに終わった場合、当該「社内受験対策講座」の企画は翌年以降中止となり、当該制度を使って、翌年以降のチャレンジを考えていた後輩の方々の、
「権利と機会」
を奪ってしまう可能性がある…という意味です。
「経営法務」的に申し上げれば、取締役の4つの義務の1つである「忠実義務」のような義務があります。
社内受験対策講座は多くの方のご努力とご尽力によって、ようやく実現する貴重な機会、希少な「見えざる資産」です。
申し込んだ方々は、是非、十分にこの点をご認識いただき、
「全力」
で取り組んでいただきたいと思います。
まだあと1ヶ月半あります。
正味現在価値法ではありませんが、試験前の1ヶ月半は、それ以前の時間に比べて、”1時間1時間・1分1分”の価値が大きいです。
諦めずに、TPR(Time Performance ratio)を考慮し、もっとも生産性の高い方法で、仕上げていきましょう。