明日から大阪に移動。
クライアント企業を訪問申し上げ、1泊2日のマネジメント研修を担当します。
テーマは、リーダーシップとモチベーション。
こういった抽象的なテーマを扱うのは、以前は、たいへん苦手で、クライアントから要請を頂いても、丁重にお断りしてきました。
具体論の伴わない研修はお引き受けするわけにはいきません。
「精神論で終わってしまって期待はずれだった」
という感想をいただくのを避けたかったのです。
ですが、これについては常に考え続け、何年も研究を重ね、さまざまな業種・業界の経営者・マネジャー・マネジャー候補者の皆様のお話を伺ううちに、少しずつ、自分なりの仮説が持てるようになりました。
現在、いろいろな企業でお話させていただいている2つの行動科学理論(「動機づけ地形図(MCM:Motivation Contour Map)」と「マネジリアル・クライミング理論(MCT:Managirial Climbing Theory)」)は、そんな中でようやく数年前に完成したフレームワークです。
ちなみに、DREA(「経営環境分析に基づく事業戦略再定義法」)も可愛いわが子のようなフレームワークですが、こちらは経営戦略策定の手順モデルですから、行動科学とは畑が違います。こちらについてはまた後日。
「動機づけ地形図」は、従業員の動機づけの要因を「相互に因果関係がある7つの要素」に分解するところから始まります。
私はこれを「7つの湖(Seven Lakes」と名づけ、「動機づけ地形図」という1枚のチャートに表現しました。
チャート中に登場する矢印を「川(river)」と呼び、水の流れに例え、各要因間の因果関係を表しました。
矢印の「矢」側を「下流」、その逆を「上流」と呼び、上流の湖が水でいっぱいになると、水は下流に流れ始め、やがて下流の湖の数位も高くなる…という連鎖反応を用いて、モチベーションの向上を説明したモデルです。
モデルの組立に当たっては、マズローに始まる古典的な欲求段階理論はほとんど参考にしませんでした。相容れなかったからです。
逆に、日本ではまだまだマイナーな、デシの内発的動機づけ理論、チクセントミハイのフロー理論、ブルームらの提唱する期待理論からは大いに刺激を受けました。
私が至った結論の1つは、「モチベーションは、フロー理論のような因果関係だけで説明することもできず、期待理論のような因数分解だけで割り切ることもできない」という点でした。
その結果、両者をハイブリッドさせたのが、「動機づけ地形図」の大きな特徴となりました。
ハイブリッドというとすぐに連想されるのが「光」。物理学における「光」の扱いです。
実は、
「光は粒子としての性質と波としての性質を合わせ持っている。月・水・金は粒子として考え、火・木・土は波として考えよう」
という物理学上の笑い話がヒントになって誕生したのが、「動機づけ地形図」なのです。
上流の湖から流れてくる水によって水位が上がる方法(マネジメント技法)を、水位の「間接的向上法(Indirect Method)」と名づけ、湖自身の底から水が湧きでてくることによって、当該湖の数位が上がる方法(マネジメント技法)を「直接的向上法(Direct Method)」と名づけ、多くの技法・各論を体系化しました。
湖が底から沸き上がるという表現は、デシの内発的動機づけ理論からヒントを得たものです。同理論を説明するときに使用する事例のいくつかは、ダニエル・ピンク氏の『モチベーション3.0』で紹介されているものと似ています。
以前から私の講演を聞いている方々の中には、昨年刊行された『モチベーション3.0』を読み、「(引き合いに出されている事例が)似ていますね」とメールをくださった方もいます。
自分と似た考えを、世界的な人物が取り上げてくれたことは、たいへん大きな自信となりました。
ただし、講演は彼のほうが100倍うまい(笑)。当たり前です。ダニエル・ピンク氏と私を比べるのは、イチローと高校球児を比べるようなものです。ダニエル・ピンク流に申し上げれば、
「チーターとあなたの義弟を徒競走で比較するようなものです」
ということになります。
話を戻します。
「7つの湖」とは、「関係性」「有能感」「自己決定感」「承認」「適職感」「価値」「人的目標」です。
上場企業・大手金融機関のマネジャーたちが、どのような要素に注目して、部下のモチベーション・マネジメントをしているのか、いろいろ調査して、最終的に残ったのがこの7つだったのです。
開発当初は「11の湖」からスタートしました。2桁の素数である「11」は馴染みのうすい数で、
「多すぎる」
「覚えられない」
というクレームを頂きました。
徐々に数を減らし、「9つの湖」を経て、現在は「7つの湖」に落ち着いています。
7つの中で、最も上流に位置する湖が「関係性」であり、河口付近に広がる最も下流の湖3つが「適職感」「価値」「人的目標」です。
この3つの湖からも「川」が流れだしており、水は最終的に「海」に流れ込みます。この「海」が「モチベーション」そのものなのです。
また、他の湖と特に結びつきが強い「有能感」と「承認」は、地形図中の「心臓部分」に当たります。
この2つの湖が、個人の中核的なドライビング・フォースになっているのです。
マネジャーが一番配慮しなければならないのが、自分の部下の心の中にあるこの2つの湖(「有能感」と「承認」)の数位です。
マネジャーは、当該2湖の水位が下がっていないか、いわんや、干上がってなどいないか、常にチェックし、水位を高めるためのマネジメントを行うべきです。
各湖の水位向上法には、いろいろなものがあります。ここでお話ししてしまうと、さすがに、営業秘密の無償公開になってしまうので、控えさせていただきますが、裏をかえせば、私の講演・研修の中心は、その具体的技法の解説に終始します。
理論が完成した後、
「ネーミング」
については三日三晩考えました。
なかなかよい名前が思い浮かばず、当初は「セルフ・モチベーション・プログラム」と呼んでいまいた。
ただ、この名称では、当該理論の特徴がまったく生かされていないと反省。
国土地理院発行の2万5千分の1地形図を見ていて、
「!」
と思いついたのが、「地形図」という名前でした。
趣味の登山が仕事で生きた数少ない瞬間です。
「動機づけ地形図」の英訳は「Motivation Contour Map」であり、等高線を示す「Contour」という用語が使われています。
しかし、実際の動機づけ地形図には等高線は描かれていません。
図中の標高の高低は、水の流れ、つまり、矢印で表しているから、要らないのです。
「動機づけ地形図」については、昨年、中国からお迎えした経営大学院(MBA)の教授・学生の皆様向けに、講演させていただいたことがあります。
当日の通訳のご担当がすばらしい方で、100枚近いPowerPointスライドを1週間で完全に翻訳し、かつ、当日は、複雑な当理論を上手に通訳してくださいました(この日の講演の成功は、原作者よりも翻訳者の腕によるところ大です。客観的に見てもこれは本当!)。
「中国のマネジメント・部下管理は、今までどちらかというとHardなものだったが、今後はもっとSoftなものに切り替えていく必要がある。その際に、動機づけ地形図の考え方はたいへん参考になる」というご感想を参加者の方々からいただくことができました。
これを伺って、正直、ほっといたしました。実は、講演するまでは、ドキドキだったのです。経済のしくみも文化的な土壌も違う中国の方々に受け入れていただけるかどうかは、やってみないとわからなかったからです。
私の主張が、公の場で、まとまった人数の他国の方に受け入れていただけたのは、この時が初めてでした。たいへん大きな自信につながるとともに、家に帰ってくるまでとても興奮していたのを、今でもはっきりと覚えています。
今週は、ちょうど金曜日に、この「動機づけ地形図について、大阪のクライアント企業の皆様を対象に紹介させていただきます。
毎年、中小企業診断士の理論政策更新研修のテーマとしてお話しし、おかげさまで高い評価をいただいているのですが、さて、今回受講されるマネジャーの皆様は、どのように感じてくださるでしょうか。
いろいろご意見・ご感想を伺って参りたいと思います。
「動機づけ地形図」の概要・基本理論については、すでに一昨年前に刊行された『コミュニケーション・マーケティング』(同文館)』の中でも一部紹介しています。
興味にある方は是非、一度、ご覧になってみてください。
ああ…!
今気がつきましたが(最近、このフレーズが多い)、そろそろ、次の理論政策更新研修のテーマを考えなければ…笑
どなたかよいアイディアを下さいませんかね(^_^;)