今や、講義・講演といえば、PowerPointを使ったスタイルが、スタンダードです。
すでに、デファクト・スタンダードとなっていますから、今更その功罪を「あれやこれや」といちいちここで語っても意味がありません。

しかし、PowerPointを用いた講義・講演には大きな欠点が1つあります。
話す順番を予め立てておくことが余儀なくされますから、不測事態への対応力が弱いという点です(【例】質問対応しにくい、講義中に講師が思いついた話がしにくい、時間が足りなくなったときにスライドをとばさなければならない 等)。

以前に、大学院時代の恩師を尋ねた際に、

「竹永さん、私は最近、PowerPoint使うのやめてしまったよ。あれだと、予め用意した順番でしか講義ができなくなる。PowerPointに支配されている感じがする。臨機応変に、その場その場で必要なスライドを出すなら、OHPのほうが速い。ですから、最近では、PowerPointを避けて、OHPを使うようになったよ」

というお話を伺ったことがあり、実は、それ以降、自分でもPowerPoint主体の講義・講演にはいささか疑問を持っていました。

そこで、今日はこの問題に対する解決策をメモしておきたいと思います。

PowerPointスライドを講義・講演の順番に丁寧に並べる方が大半だと思いますが、私はスライドをきちんと並べません。当日使用するスライドはかなりアバウトな順番に並べてあります。極端なことをいえば、当日使用するスライド(数十枚から200枚程度)がまったくバラバラにならんでいても特に苦労しません。「1.まとめ⇒2.具体的解決策⇒3.表紙⇒4.問題点⇒5.現状分析⇒6.目次」といった順番でも構いません。

「そんないい加減な講演をしているのか」

とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、私は、自分の手元に2つのメモを用意しておくのです。

1つは、本日話す「予定」のスライドのナンバーを書いたメモ。
上記の例の場合であれば、、

「3、6、5、4、2、1」

といった感じのメモになります。

講演開始前に、スライドショーを開始し、

「3.表紙」

を出し、自分の出番を待ちます。

普通は、講演が始まったら、普通は「Enter」キーを使って次々と予定したストーリーに従って、順番にスライドを出していくと思いますが、この場合、そんなことをしたら、話の組み立てがめちゃめちゃになってしまいます。

そこで、前述のメモにしたがって、

「6⇒Enter⇒5⇒Enter⇒4⇒Enter⇒2⇒Enter⇒1」

と、次に使用するスライドのナンバーを打っては、「Enter」をたたき、次に必要なスライドを出し、当該スライドでの必要な話が終わるたびに、スライドをチェンジしていきます。この機能をご存知でなかった方は一度試してみてください。本当に便利です。

この方法であれば、最悪、講演会場についてからでも、スライドの組み立てができます。自分の話の組み立てにそって、必要なスライドのナンバーを書き取るだけです。
仮に、1つのPowerPointファイルの中に、数百枚のスライドがあったとしても、当日使用するスライドのナンバーだけを拾って、メモにしておけば済んでしまいます。
前の日に、自分の話す予定通りにスライド自体を入れ替える作業は要らなくなります。

何らかの事情で、講演の時間が押してしまい、後半のスライドを割愛せざるをえない場合も、

「時間がないので飛ばします」

といって「Enter」を何度もたたくという、「およそスマートとはいえない進行」をすることなく、スライドを飛ばすことができます(少なくとも受講者・聞き手には、スライドを飛ばしたことはきづかれずにすみます)。

あたかも乱数表のように見えるこのメモ。このメモが、講義・講演の際には、実はたいへん役に立ってくれるのです。

以上が2つのメモのうちの一方です。
では、いま一方のメモとはなんでしょうか。

今一方のメモは、スライド全体のサムネイルを記したメモです。
このメモについては、以前はプリントアウトしていましたが、最近はiPadを紙のメモの代わりにしています。
私の場合、Dropboxに「本日使用」というフォルダが設けられており、これがパソコンと同期していますから、このフォルダに当日使用するPowerPointファイルを放りこんでおけば、iPadでも同時に開くことができます。具体的には、GoodReader経由で、当該PowerPointファイルを開けば、パソコン画面はスライドショーにしたまま、別画面であるiPadで、スライド全体をいつでも見渡すことができるのです。
もちろん、これはiPadである必要はなく、プリントアウトした紙でも事足ります(【例】6面1枚の縮小印刷、9面1枚の縮小印刷 等)。

講義・講演中に、受講者の方から質問が出たり、自ら思うところがあって話を挟みこみたい場合には、このサムネイルを見ながら、「見せたいスライド」をいち早く発見。当該番号を押し、「Enter」をたたく…これで、「見せたいスライド」にはスムーズに飛ばすことができます。
スライドショーを中断し、サムネイル画面を行ったり来たりする…という必要はなくなります。

以上が今1つのメモの効果です。

本日、ご紹介した方法であれば、縦横無尽に、臨機応変に、PowerPointに支配されずに、講義・講演を進めることができます。

繰り返しになりますが、講義・講演中に、スライドショーを中断して、PowerPointのサムネイル画面に戻し、必要なスライドを発見し、それを出し、再び、スライドショーに戻す…
こんな作業を毎回していたのでは、とても、スムーズな講義・講演とはいえません。受講者・聞き手の集中力もとぎれてしまいます。

①話す順番(の予定)を記したメモと、②スライド全体のサムネイルのメモが、手元にあれば、あとは、「スライド・ナンバー⇒Enter」という操作で、すべての問題は解決します。

講師・講演者の皆さん。
PowerPointの支配から独立し、自らの講義・講演を取り戻しましょう(笑)。