先週担当した経営戦略の担当研修中、ひとつ大きなヒラメキがありました。

講師である私も含め、参加されたほとんど受講者の方が、使用したケーススタディ(一橋大学 「パナソニックIH調理器事業」)を読み解く際に、競争優位の持続的源泉の1つとして、「組織文化」を重んじていました。
模倣困難性の高い強固な組織文化は、企業にとって、持続的競争の源泉になる…というオーソドックスな発想です。
組織文化の持続的競争優位性については、VRIO分析を紹介する際にも、典型的な例としてもあげられます。

しかし、裏を返せば、強固な組織文化が出来上がるまでには相当の時間がかかり、また、文化を作り上げるためのマネジメントというのも定石がない…

つまり、組織文化は、結果として生まれることはあっても、マネジメント上は、統制不可能要因に該当してしまうのではないか、という問題がついてまわります。

ケーススタディの解答としては

「強固な組織文化が当該企業の成長の鍵となります」

と、”きれいに”まとまるのですが、それを自社に転用しようとしたところで、

「でも、うちでは無理ですよ」

と、思考が停止してしまうのです。

研修中、受講された方々のディスカッションと発表を聞きながら、私がヒラメいたのは、

「自然発生的な組織文化を期待するだけではなく、人工的・強制的に組織文化(またはそれにに近いもの)を導入することはできないか?」

という点でした。

講義中、演習中ゆえ、その場でいろいろ調べることはできませんでしたが、先日、Facebookで知り合った方々に刺激を受け、

「たまには、『古典』『名著』を読み返すか」

と書棚から手にとった

『エクセレント・カンパニ−』

の中で、次のような事例があったのを思い出しました。
(企業名を忘れたので、のちのち、ちゃんと調べる予定です。)

その会社では、従業員は上司に自分のアイディアを提出し、不採用となると、他の上司(非直属上司)に、社内営業することができます。

「うちの上司には採用されなかったのですが、◎◎部長のところで、使ってもらえませんか?」

「ううむ、うちでも使い道がないなあ」

と断られれば、さらにまた別な上司へ。自分のアイディアの社内営業を継続します。
努力の甲斐あって、

「いいね。じゃあ、うちの事業部で使わせてもらうよ」

となれば、めでたく社内商談成立。場合によっては、アイディアを思いついた彼も、採用してもらったこちらの事業部に移動してきます。

この際、アイディアを思いついた社員(社内発明者)の人事評価はアップします(【例】5点プラス!)。
同じく、採用した別部門の上司の人事評価もアップします(【例】5点プラス!)。

一方で、面白いのは、アイディアを思いついた社員(社内発明者)の直属上司への評価。

「せっかくのナイスアイディアに気づかないとは情けない」

というイメージでしょうが、この直属上司は人事評価はマイナスに評価されます(【例】5点マイナス!)。

社内経営資源(アイディア)を増やした社員(社内発明者)、それを有効に活用できると意思決定をした非直属上司の功績は高く評価し、アイディアの価値を見抜けなかった直属上司については、任務懈怠があったとみなされ、低く評価される…

これは、本来、「組織文化」ではなく、「組織運営システム」とでも表現するのが適当でしょう。

しかし、文化は自然発生的ですが、システムは人工的に創り上げることができます。

また、このようなシステムが定着すれば、本来、マネジメントが困難な(統制不可能な)「組織文化」が醸成されていくのではないかという仮説が成立します。

マイナス評価となるのを恐れる直属上司は、部下の声(アイディア)に、より注意深く耳を貸すようになるでしょうから、コミュニケーション量は増えるはずです。

いささか、「アメとムチ」理論であり、ハーズバーグやドラッカー、ダニエル・ピンク先生らには、批判を受けるかもしれませんが、試してみる価値のある仮説だと思います。

桑田・田尾両氏の名著『組織論』(有斐閣アルマ)の中では、グループ・ダイナミクスの基本がいろいろ紹介されていますが、そのなかで、強固な組織文化醸成のための秘訣として、確か、次の5点が示されています。

1.近接性
2.構成員の同質性
3.相互依存性
4.コミュニケーション・ネットワーク
5.帰属意識の高揚

前述の仮説は、このうち、1,3,4,5の点で、直接・間接の効果があると考えられます。

1.近接性 当該システムによって、部下と直属上司・非直属上司の心理的距離が縮まる
3.相互依存性  部下のアイディアを直属・非直属上司が活かすという相互依存システムである。
4.コミュニケーション・ネットワーク  社内営業システムはコミュニケーション・ネットワークに該当する
5.帰属意識の高揚 評価された部下・上司は「この組織にいてよかった」と感じる可能性が高い

なお、当該システムには、おまけがあります。
すべての非直属上司への社内営業が失敗に終わった場合にはどうなるのか。
その場合、社内発明者は、経営トップ(【例】取締役、取締役会、代表取締役)への営業が可能になります。つまり、企画書を経営トップに上申できるのです。

「おもしろい。一丁やってみるか」

ということになれば、彼は新規事業部の責任者に抜擢され、そのアイディアを自ら実現するべく、奮闘せよ! となります。

「アイディアの採用先、自らの転職先がなければ、独立して自分でやってみるか」

多くの起業家がそうであるように、当該システムでは、最終的に、社内ベンチャー発足という受け皿を用意しているのです。