南アジアという地域は、国境で区切られていても歴史が複雑に絡み合い、「平和な隣国関係」という理想からは程遠い。
2025年5月10日、インドとパキスタンはカシミール地方での即時停戦に合意した。アメリカの仲介によりようやく実現したが、その数時間後にはドローン侵入や爆発音が報告され、停戦合意はあっという間に揺らぎ始めている。
パキスタンとバングラデシュの関係には変化の兆しがある。1971年の独立戦争と虐殺の記憶は両国の間に深い溝を残してきたが、2024年末の首脳会談、2025年春には15年ぶりの政府高官による対話が行われ、歴史問題や資産分与をめぐる議論が再開された。
火花の飛び交う三国の間で、静かながら存在感が大きな国がネパールではないだろうか。
ネパールはかつて「非同盟主義」を外交方針の中心に掲げていた。インドと中国という二大国に挟まれながらも、軍事同盟には属さず中立を貫くという理念が、冷戦期には明確なメッセージだった。
現在のネパールは、そうした理念よりも実利と多極的バランスを重視している。
中国とは一帯一路構想を通じて急速に接近し、国境開放やインフラ整備を推進。政党間交流も活発である。
その一方で、アメリカとの関係も重視しており、要人の訪問も続いている。
インドとも歴史的・宗教的・経済的つながりを維持しつつも、時折、国境線をめぐって対立を繰り広げている。
ネパールは、いまや単なる「中立国」ではない。三大国の間を巧みに泳ぎながら、国家としての利益最大化を図る戦略的プレイヤーに進化しているのではないか。
ネパールの存在感は外交の舞台だけにとどまらない。
日本にとって、ネパールは最も身近な南アジアの国である。現在、日本には13万人を超えるネパール人が住んでいる.
コンビニや飲食店、介護施設、建設現場など、私たちの生活の至る所で彼らと出会う。
ヒンドゥーや仏教を基盤とする価値観、勤勉で温厚な気質、日本語習得への意欲…その多くは、すでに地域社会の一員として静かに根づいている。
ネパールの方々は南アジアの情勢をどう見るか、そう考えるか…一度お話しを伺ってみたいものである。