私たちはふだん、海や川を泳ぐ生き物を「魚」と呼ぶ。そして教科書では「魚類」という語を目にする。だが、分類学の体系には「魚類」という正式な分類単位は存在しない。
「魚類」という言葉は、魚のような見た目や水中での生活という特徴をもとにした便宜的な総称にすぎない。それが分類学的に成り立たないのは、魚に見える生物たちが、実際には複数のまったく異なる綱(class)に分かれているからである。
分類の階層(綱と目は混同できない)
生物の分類には、「界・門・綱・目・科・属・種」という階層構造がある。たとえばヒトは、脊索動物門・哺乳綱・霊長目・ヒト科に分類される。
ここで注意したいのは、「哺乳綱」と「霊長目」が分類階級として明確に異なるにもかかわらず、日常語では「哺乳類」「霊長類」と並列に扱われる点である。このとき用いられる「〜類」という語は、しばしば分類階級の違いを曖昧にしてしまう。これは「魚類」においても同様である。見た目によるまとめ方が、分類体系の構造そのものを誤解させやすくなることがある。
「魚類」という語の中身
「魚類」と呼ばれている動物群は、実際には脊索動物門に属する以下の複数の綱に分かれている:
• 円口綱:ヤツメウナギ、ヌタウナギなど(顎をもたない)
• 軟骨魚綱:サメ、エイなど(顎をもち、骨格は軟骨)
• 条鰭綱:タイ、マグロ、サケなど(いわゆる「普通の魚」)
• 肉鰭綱:ハイギョ、シーラカンス、および陸上脊椎動物の祖先を含む
とくに肉鰭綱からは、両生綱、爬虫綱、鳥綱、哺乳綱といった現生の陸上脊椎動物が進化している。私たちヒトを含む哺乳綱の動物も、広義には肉鰭綱の「魚に似た祖先」から枝分かれした存在である。
「魚類」という言葉は、水中生活という共通点から便宜的にまとめたものであり、分類学上の綱ではない。あくまで俗称であり、厳密な系統分類の単位ではない。
恐竜もまた、かつては俗称だった
分類階級と見た目による総称が混同された例は、「恐竜」にも見られる。かつて恐竜は、鳥とは異なる絶滅動物の総称とされていた。しかし、現在では鳥綱が恐竜の系統に属していることが明らかになっている。鳥を含めなければ恐竜の進化は語れないのである。
「魚類」も「恐竜」も、見た目で命名された用語でありながら、分類体系にそのまま対応するわけではない。それらを学術的に扱う際には、便宜上の表現と分類上の構造を切り分けて理解する必要がある。
分類方法の変化を知ることのおもしろさ
魚は存在する。しかし「魚類」という分類は存在しない。分類学とは、見た目ではなく、共通祖先とその分岐に注目し、生物を構造的に捉え直す学問である。
「魚類」という語を使うことが直ちに誤りであるとは言えない。ただ、それが分類体系の正式な単位ではないということは知っておくべきである。分類に関する正確な知識は、自然に対するまなざしを問い直すものであり、教育や科学理解の根幹にもかかわってくる。
「魚類は存在しない」という事実は、分類とは何かを考えるきっかけであり、大袈裟にいえば大自然の捉え方を更新する契機となるかもしれない。