「一人当たりGDP45位」の衝撃
先日、日本経済研究センターが発表した予測が波紋を広げている。50年後、日本の1人当たりGDP(所得水準)は世界45位にまで後退するという。今の29位から、チェコやカザフスタン、ロシアよりも下になるという。GDPそのものは増える見通しであるが、世界の多くの国がもっと速いペースで伸びるため、日本の相対的な地位は下がってしまうということのようである。
人口減少は避けられないとしても、生産性の向上により、一人当たりの数字はむしろ上がることさえあるはずである。問題は、日本という国が人口が減っても豊かさを保てるようなしくみになっていないということなのだはないだろうか。
「持っていても活かせない」技術と制度
日本はAIやデジタル技術でも世界の先頭を走っていると思われがちである。確かに、研究論文や部品の技術では優れている。しかし、それを社会全体で活かせていない。中小企業や役所では、いまだに紙やFAXが当たり前。デジタル化が進んだと言っても、やっていることは「紙の仕事をそのままパソコンに置き換えただけ」で、仕事の中身そのものは変わっていない。
これは技術の問題ではなく、仕組みの問題である。制度も職場のやり方も、昔からのやり方を引きずったまま、新しい技術と噛み合っていない。せっかくいい道具があっても、使いこなせなければ宝の持ち腐れになってしまう。
未来に投資できない国
さらに深刻なのは、お金の使い方のバランスである。日本では、限られた予算の中で医療や年金などの支出がどんどん膨らんでいる。その一方で、教育や子育て、若い人のための再教育にはあまり予算が回らない。未来に投資するよりも、今を守るために使ってしまっている。
政治の仕組みも影響している。現在のシステムでは、年配の人が多く投票に行くため、政治家はどうしても高齢者向けの政策に力を入れる。若い世代の声が通りにくく、長期的に必要な改革が後回しになってしまっている。
人はいる。でも、活かせていない
働く人の数が減っているのは事実だが、問題はそれだけではない。もっと大きいのは、「働ける人をきちんと育てていない」「育った人を活かせていない」ということである。
大学まで出ても、実際の仕事ではその知識やスキルが活かされない。転職しようにも、新しいことを学び直す機会が少ない。職場では経験や年齢が優先され、若い人の挑戦が歓迎されない空気も根強く残っている。人が本来持っている力が発揮されず、一人ひとりの働きぶりが豊かさにつながりにくい。
子どもを産み育てることが難しくなり、高い教育を受けた人ほど結婚や出産をあきらめる傾向がある。次の世代に高いスキルや教養が受け継がれにくくなり、長期的には“働ける人の質”そのものが下がってしまう。
変わるべきは「人口」ではなく「しくみ」
今の日本は、長時間働いても実りが少なく、学び直しても生かされず、挑戦しようとすると浮いてしまう。これでは、誰も本気を出せない。AIやデジタルといった新しい技術を使って生産性を高めようにも、現場がそれを受け入れる準備ができていない。
人口が減るのは止められない。しかし、一人ひとりが豊かに働き、暮らせる社会をつくることは不可能ではないと思う。そのためには、制度のほころびを直し、古い慣習を手放し、人と技術を活かす仕組みに変えていく必要がある。
日本が本当に変えるべきなのは、人口ではなく、自分たちの“構造”なのではないか。