哲学研究会の今月の課題図書は、パスカル[1623〜1662]の『パンセ』。
1ヶ月近くかけてようやく読了!
ウルトラマラソン並みの忍耐力が必要な上中下3冊でした_| ̄|○

コロナでたいへんな時期ですが、そんなとき故、自らを見直す機会と捉えたいものです。

1.パスカルの哲学

著者のパスカル[1623〜1662]は、気圧の単位ヘクトパスカルや物理学におけるパスカルの原理などでも有名な科学者です。

彼は若くして科学の天才として活躍するんですが、やがて、興味は、モノからヒトに移り、哲学に没頭します。そして、キリスト教に没頭していく… こんな人生だったようです。
彼の哲学を一言で言えば、

① 合理的・抽象的な「科学の精神」と、情念や直観による「繊細の精神」を分離・独立したものとして、両立させた
② 人間性における「悲惨」と「偉大」の両極を、対象的に指摘し、偉大さの根源を「思考」としている
③ 「悲惨」と「偉大」この矛盾を直視し、救済してくるのが「キリスト教」である
というものです。

パスカルは、非常〜〜〜〜〜〜〜に敬虔なカトリック教徒でいらっしゃったようで、デカルト以降に登場した科学者でありながら、宗教と科学の矛盾とかには一切悩んでいません。徹頭徹尾、神を信じ切っています。

2.パスカル哲学の背景

彼の哲学の背景となった3つの要素は、

① キリスト(神)
② 父親
③ モンテーニュ

という感じでしょうか。

① キリスト(神)
前述したとおり、パスカルは敬虔なカトリック教徒です。彼の姪は長い間眼病を患っていたのですが、これがキリストの荊の一部分と信じられていた聖荊に触れてたちまち快癒したという奇跡を目の当たりにし、信仰心を更に強めたようです。

② 父親
税務の仕事についていた父親のことはとても尊敬していたようです。まだ少年の頃に、父親の税務の仕事が楽になるようにと、歯車を使った計算機を発明しています。その父の死が彼に与えた影響はとても大きかったようです(私が理解できたのは、『パンセ』本文というよりも解説からですが…(^o^))。

③ モンテーニュ
モンテーニュ[1533〜1592]というのは、彼の1つ前の時代に活躍した哲学者です。いわゆるモラリストといわれた人たちのうちの1人で、パスカル自身もこのモラリストの1人として挙げられます。

モンテーニュの著書『エセー』(これも『パンセ』並の超大作。私は持っているんですが、未読です)は当時の知識人にとっては必読の名著だったようです。今で言えば、ドラッカーみたいなものなのでしょうね。

パスカルは、このモンテーニュの影響を強く受けています(『パンセ』は聖書からの引用と『エセー』からの引用がすごく多いです)。

3.パスカルが嫌悪した存在

一方、パスカルの嫌いなもの3つは、

① デカルト
② イエズス会
③ 自由思想家・無神論者

でした。

① デカルト
27歳年上だったデカルト[1596〜1650]とは交流があったようですが、後年、パスカルは公然とデカルト批判しています(『パンセ』にもずばり出てきます。

② イエズス会
日本史や世界史の教科書でもおなじみのイエズス会。宗教改革に対する旧教側の改革の動きの代表例です。日本では、そのメンバーの一人ザビエルが有名です。パスカルは、このイエズス会が大嫌いだったようです。

③ 自由思想家・無神論者
さらに、神を絶対視するパスカルにとって、自由思想家や無神論者の存在は許せなかったようです。
無神論者(汎神論者ともされますが)の急先鋒といえば、スピノザ[1632〜1677]です。彼は、パスカルと同時代人です。

しかし、私が読んだ限りでは、『パンセ』にはスピノザに対する記述は見られませんでした。スピノザの主著『エチカ』が刊行されたのはスピノザの没後(1677)ですから、1662年に亡くなったパスカルは、その存在を知らなかったのかもしれません。

4.『パンセ』の読み方

アーティスティック経営が盛り上がりを見せる昨今。
『パンセ』に挑戦しようという方もいらっしゃると思いますが、本書はいくつかの出版社から文庫が出てきますので、パラパラとめくってみて、読みやすそうなものを選ぶのがベストだと思います。
私はもっとも翻訳が新しい岩波文庫版全3巻を選びましたが、この場合、下巻だけ購入すれば十分かもしれません。下巻の後半は、『パンセ』の傑作選、つまり、アンソロジーがまとめられているからです。

また、『パンセ』のエッセンスに触れたいだけであれば、NHKの「100分DE名著」を視聴したり、そのテキストを読んでみるだけでも十分楽しめます。

スピノザの『エチカ』、ニーチェの『ツァラトゥストラ』に続き、変則的な記述の哲学書が続きます。理解できているとはいいがたいのですが、400年前の哲学者の言葉に触れるのは悪いものではありませんね。

引用・参考文献
『パンセ(上) (岩波文庫) 』(パスカル (著), 塩川 徹也 (翻訳) 岩波書店 (2015/8/18))
『パンセ(中) (岩波文庫) 』(パスカル (著), 塩川 徹也 (翻訳) 岩波書店 (2015/10/17))
『パンセ(下) (岩波文庫) 』(パスカル (著), 塩川 徹也 (翻訳) 岩波書店 (2016/7/16))