『ティール組織』は、進化論と発達心理学に基づき書かれた組織論における名著です。
本書の根拠となる発達心理学とはどのような心理学であるか、まとめてみました。
1.発達心理学とは何か
発達心理学とは、精神発達過程を明らかにし、また、心の働きや行動の仕組み一般を発達変化の側面からとらえることを目的とした心理学の一分野(領域)のことです。
人の生涯(ライフサイクル)を研究対象とする視点を強調するために、あえて、生涯発達心理学と呼称される場合もあります。
研究者としては、エリクソンとオルポート、ピアジェが有名です。
2.エリクソンのアイデンティティ研究
エリクソン(1902〜1994)は、ドイツ生まれの精神分析学者で、のちにアメリカに帰化しています。フロイトの精神分析を受け継ぎ、自我の発達やアイデンティティの問題を研究し、自我心理学を発展させました。
モラトリアムの概念を心理学に導入したことでも知られています。
『幼児期と社会』『ガンディーの真理』などの著作があります。
エリクソンは、青年期の発達課題としてアイデンティティを取り上げました。
アイデンティティ(自己同一性)とは、あるものが時間・空間を異にしても同じであり続け、変化がみられないこと、物がそれ自身に対し同じであって、一個の物として存在することです。
青年期とは、児童期と成人期との間の時期であり、エリクソンの発達段階論によれば、14、15歳から24、25歳頃までの時期です。
青年期の前半は思春期と呼ばれる時期ですが、この時期は、身体的・性的に成熟し、後半では、自我意識・社会的意識が発達します。
ルソーは「第二の誕生」と呼び、レヴィンは「境界人」(マージナル=マン)と呼んだ時期です。
ライフサイクル(生活周期)は、誕生から死にいたる人の一生であり、人生の周期のことです。エリクソンが、著書『ライフサイクル その完結』でとりあげたことがきっかけとなり、世間に普及した概念です。
経営学においても、マーケティングで、プロダクト・ライフサイクル理論に転用されている概念です。
3.オルポートのパーソナリティ研究
オルポート(1897〜1967)は、アメリカの心理学者で、エリクソンよりちょっと先輩です。彼は、ドイツ心理学の影響を受けてパーソナリティ(人格)の統一性・独自性・能動性を重視した人格理論を展開したことで知られています。
態度の研究など、社会心理学でも重要な業績を残しています。
この他、流言の研究でも有名です。デマについての研究の先駆者というわけです。
パーソナリティとは、心理学で使われる用語で、個人個人に特徴的な、まとまりと統一性をもった行動様式、あるいはそれを支えている心の特性を指します。
精神分析の元祖であるフロイトによる、心を自我・超自我・エスに区分する構造モデルと、意識と無意識に分ける局在モデルが有名ですね。
これに対し、性格(キャラクター)の方は、 心理学においては、その人特有の行動の仕方、ならびにそれを支える心理的な特性を指します。 特に感情的・意志的な側面をいうことが多いようです。
オルポートによれば、「キャラクター」という単語には価値的な意味合いが含まれています。
感情面の個性は、気質に基づくといい、気質から作られる行動や意欲の傾向が性格とよばれています。
性格とよく似た言葉に人格があります。前述したパーソナリティの訳語としても使われる言葉ですが、人格には社会的もしくは論理的な内容が含まれており、性格より範囲が広いという印象がついて回ります。
3.ヒポクラテスによる気質の4分類
気質(先天的傾向)も発達心理学で使われる用語です。人の性格の基礎をなす感情的反応の特徴であり、遺伝的・生理的規定が強いとされています。
多血質・憂鬱質・胆汁質・粘液質の4分類(ヒポクラテスの体液説にもとづく4分類)が有名です。
ヒポクラテス(ヒッポクラテス)(前460頃〜前375頃)は、古代ギリシャの医師です。医術を魔法や迷信から解放し、経験を重視する科学的な医学の基礎を確立したことで知られています。彼の医術・医学的知識は、後に『ヒポクラテス全集』として集大成されました。
医学者としての倫理・規範などについても多くの見解を残し、医聖・医学の祖などと称されています。
彼は、体液説にもとづき、気質を、多血質・憂鬱室・胆汁質・粘液質の4類型に分類しましたが、これが現代まで信じられているわけでう。
まず、多血質とは、楽天的で快活ですが、激しやすい気質だとされています。
憂鬱質は、黒胆汁質とも呼ばれ、わずかなことでも誇大に考えて取り越し苦労をし、いつもくよくよして心が晴れない性質だとされています。
胆汁質は、胆液質とも呼ばれ、激情的で怒りっぽい気質だとされています。
最後に、粘液質(粘着質)は、感情の変化や活気に乏しいが、粘り強く勤勉な気質だとされています。
これらの分類が、現代の医学に当てはめて、妥当なのかどうかはわかりませんが、今でもよく目にします。この他にも、気質には、心理学・生理学などに基づく種々の分類があります。
4.ピアジェの児童を対象とした発達心理学
最後に、ピアジェ(1896〜1980)についても紹介しておきます。彼は、スイスの心理学者であり、実験的臨床法を用いて、児童の知能や思考の発達過程を研究、知的操作の構造を明らかにしたことで知られています。『発生的認識論序説』などの著作を残しています。
エリクソン、オルポート、ピアジェは、国籍は違いますが、ほぼ同時代人であり、発達心理学は彼らを祖として、その後もさまざまな研究が行われています。