3.機械学習・ディープラーニング・ニューラルネットワーク(3)
====================================
(1) 暗黙知伝達の難しさ
ちなみに、「よいきゅうり」「わるいきゅうり」というは、簡単には定義できませんが、イヌとネコの外見上の差も定義が難しいですよね。
試しに、ノート化手帳に、イヌとネコの外見的な差異を文章で表してみてください。
筆、止まります笑
特に、犬はいろいろな形の犬種があり、かなり難しいです(@_@)
これらは、形式知(言葉や文章、図表等に表すことができる知恵)ではなく、暗黙知(言葉や文章、図表等に表すことができない知恵)の問題でした。
暗黙知というのは、文章等で定義できないため、プログラムを人間が予め作っておくことはできません。
しかし、ディープラーニングを用いた機械学習であれば、とにかくたくさんのサンプル(お手本データ)を見せることで、なんとなく違いを理解させていくことができるわけです。
先程ご紹介した「あるなしクイズ」の要領です。
おそらく、知らず知らずのうちに、私達人間も暗黙知の伝達の際に同じような経験を必要としているわけです。
「師匠について10年。なんとなく、師匠のやり方がわかってきました」
…教科書(形式知)のない職人さんの世界では、経験を通じてしか師匠の技(暗黙知)は伝えられないわけです。
(2) 暗黙知伝達の応用①(音声への応用)
暗黙知の伝達は本来難しいが、ディープラーニングによる機械学習を通じて、AIに学ばせることはできるようになった…
これはすごいことです。
ここで、また、ヘレン・ケラー的拡張を試みてみましょう。
そうすると、いろいろなことへの応用・転用が可能になります。
まずは、音声への転用。
人の声を思い浮かべる方が多いでしょうが、機械の音にも注目したいものです。
製造業や、建築やリフォームの現場で役立つのは、機械や設備から発生する音の活用でしょう。
音によって、その機会や設備が、故障直前と分かれば、壊れてしまって、いろいろな経済的なトラブルが発生する前に、部品を交換したり、修理したりすることができるようになります。
無用なコストの発生を顧客に負担させる必要がないばかりか、社会全体として抑制することができるようになるわけですね。
自動車、工場の設備、家電、パソコン、住宅…
いずれの場合もいっしょでしょう。
(3) 暗黙知伝達の応用②(提案書等への応用)
これはちょっと近未来のお話ですが、もしかしたらこんなことも可能になるかもしれません。
提案書の良し悪しの判別も、AIが行う可能性が出てきます。
使われている画像情報、キーワードの数、文章の長さ、表現のわかりやすさ…
近い将来、「提案書」や「企画書」の良し悪しについて、総合的にAIが判断できるようになっても不思議ではありませんね。
ここまでいかなくても、最近、ある地方銀行では、営業マンの営業日報の内容から、商談成立する可能性のある案件とそうでない案件をAIに分析させようという取り組みが始まりました。
というわけで、きゅうりの事例だけを見ただけでは、
「へえ。最近の農家、すごいねえ」
で終わってしまいそうなディープラーニングや機械学習の事例ですが、ヘレン・ケラー的に視野を拡大していくと、決して他人事ではありません。
私達の日常生活やビジネスライフにも大きな影響を与えることは、まずもって、間違いないわけです。
先程列挙した「AIでできるようになること(予想含む)」ですが、やはり、あながち、夢や妄想とはいいきれなくなっています。
(4) AI時代の「棋士」たちとのつきあいかた
閑話休題。
囲碁・将棋の話に戻しましょう。
たとえば、囲碁の場合、打ち方に正解があるわけではないので、ダイレクトに答えを人間が示す「教師あり学習」ではありません。
教師なし学習の代表例にあたる強化学習の事例です。
勝った試合(棋譜)は高く評価され、負けた試合(棋譜)は低く評価される…そのデータの蓄積から、この局面における最適な手を考えさせているわけです。
藤井プロを始めとする若い棋士たちは、先輩たちが何年もかかって入手していた棋譜データを短期間で大量に入手し、パソコンで分析しているそうです。
この速度は、ITに弱い大人のプロたちにはおよびもつかないものだといいます。
彼ら世代が強いのも頷けますね。
今後、私達の職場に入ってくる新入社員たちは、みな、藤井四段のような感覚と経験を持っていると考えてみましょう。
情報の探索速度、情報の分析速度、情報の処理速度…全部、こちら世代が負けているという可能性があります。
SF映画やドラマでの話ではなく、現実にそうなる可能性大です。
げにもおそろしい時代ですね。
職場における、そういった新世代の「棋士」たちとどうつきあうかは、私たち世代の大きな課題です。
(5) ディープラーニングのイメージ
さてさて。
これまで、ディープラーニングを用いた機械学習を中心に見てまいりましたが、もう1つの立役者、ニューラルネットワークについても確認しておきましょう。
ディープラーニングのしくみの話にもつながります。
ニューラルネットワークとは、人間の脳のしくみをヒントにした手法でしたよね。
私たち人間の神経細胞は、各々がつながっており、上流の細胞から入力された信号が下流の細胞に影響を与えるしくみになっているそうです。
いくつもの細胞を経ることにより(つまり、中間の細胞を経ることにより)、複雑な意思決定であっても、できるようになるそうです。
人工ニューラルネットワークを採用したコンピュータの場合も同様で、前述した「層」が多いほうが、複雑な判断をすることができるそうです。
たとえば、1枚の写真をコンピュータに見せたとしましょう。
この場合、その写真の画面が明るいとかくらいとかというシンプルな判断は中間層の数が少なくてもできるそうです。
しかし、写真に写っているのが、猫の顔なのか犬の顔なのかといった複雑な判断は中間層を増やしていかないと、行うことができないのです。
つまり、ディープラーニング(深層学習)が必要になります。
① 中間層の1層目では、「目鼻の区別」しかできないが…
② 中間層の2層目では、「顔の構成」が全体的にできるようになる
(「あ、これは顔だ」ということがわかるようになる)
③ 中間層の3層目では、その顔が「ネコの顔か、イヌの顔か」わかるようになる
という感じです。
中間層がディープになるほど、計算は複雑になりますし、計算時間もかかかるのでしょうが、とにかく、複雑な事象を判別したり、意思決定したりできるようになるということですね。
では、ここまでのまとめ。
層を増やすことで、コンピュータが自ら認識できる対象が増えていく、つまり、複雑な事象の区別ができるようになるということですね。
(6) ディープラーニングの比喩
ニューロネットワークの「層」が増えれば、計算が複雑になるのはわかるのですが、なぜ、複雑な意思決定ができるようになるのか…なかなか理解に苦しむところです。
しかし、実際の社会においても、「層」が増えることにより、下の方の層と上の層のほうで判断が別れる場合というのはありますよね。
たとえば、皆さんがお勤めになっている会社の場合で考えてみましょう。
ある朝、顧客から商品の注文があれば、電話を受けた社員は普通に喜びますよね。
この、「商品が売れたな」という単純な判断は、いわば、会社における「最下層の判断」です。
しかし、この日、次々と注文の電話が鳴っているとしましょう。
営業所の賑わいを見ながら、営業担当の課長であればこの商品はヒット商品になると予感し、今後の販売計画を見直すかもしれません。
これは、いわば、「中間層の判断」になるわけです。
さらに、全国各地の営業所での「嬉しい悲鳴」があがっているとしたらどうでしょうか。
経営者は喜んでばかり入られません。在庫確保のための手段の検討に入ることでしょう。いわば、これが、「最上層の判断」ということになります。
このように、「商品が売れた」というデータについても、判断のレベルは
層によって異なるわけです。
「最下層」では単純なことしかわかりませんでしたが、層が上がるに連れて、意思決定は中期的・長期的な複雑なものになっています。
「上の連中は、現場のことがわかっていない」
「親の心子知らず。うちの社員は経営レベルでものごとを考えることができない」
こういった組織の「層」による判断の差はどこの会社でも見られる問題ですが、ディープラーニングの概念を理解しようとする際には、
「「層」が増えれば、高度な意思決定ができる」
ということを理解するときのよい比喩にはなりそうですね。