現在、「名著を読む会」の課題図書となっている『経営戦略全史』。
なかなかにおもしろい。
一人で読んでいたら、
「ああそうだったな」
「まあ、知ってるわな」
…で済ませる内容も、仲間たちとディスカッションすることで深みが増します。
私が今回再発見したことの一つに、
「ミンツバーグの経営学はけっこう人気があるんだ」
という点です。
10年くらい前でしょうか。彼の著書『戦略サファリ』…読んでは見たけれど、全然響きませんでした。論文集も一度トライしたんですが、これも挫折…
ところが、既存の様々な経営学をTPOに合わせて活用すべきだという彼の折衷理論(と、私は呼んでいます。正しくは、「コンフィギュレーション学派」というそうですね)は、支持者が多いんですね。
ちなみに、折衷理論にも二通りあります。
① 戦略策定にあたっては、TPOごとに、使うべき理論を選択すべきだという考え方(つまり、TPOごとに適した理論は異なるという考え方です)
② 戦略を立てるときの方法は普遍的であるべきだが、そのために、さまざまな理論を組み合わせるべきだという考え方(つまり、いいとこ取りして戦略を立てればよいという考え方です)
前述したミンツバーグは、①の立場をとっており、私は、②の立場をとってきました。
特に、経営学の大御所ミンツバーグを意識したわけではなく、先日、振り返ってみたら、折衷理論には2つの立場があり、自分のやりかたは、ミンツバーグとは異なり、②だったなあと感じた次第です。
詳細は、拙著『戦略的マーケティング』に詳述してあります(ちなみにこの本は、一応、社長の山口と私の共著ということになっていますが、私が講義している内容を丁寧にまとめて1冊の本にまとめてくれたのは、山口です。いつまでも筆をとらない私に変わって実際の原稿を一から作ってくれたのは上司なのです。私が参加したのは校正作業からです。ですから、発案は間違いなく私なのですが、執筆自身は全部山口の手柄なわけです。m(_ _)m)
同書の内容は、ざっと次のような流れになっています。
① 事業理念の確認が重要である
② SWOT分析を単純化したAD分析、AD分析を発展させた「重畳的AD分析」の行う必要がある
③ ポーターの競争戦略理論である「5つの競争要因」というフレームワークは、AD分析の補完分析として用いるべきである
④ AD分析の結果から戦略のヒントを用いる場合、「ゲシュタルト分析」という手法が有効である
⑤ ゲシュタルト分析を行う際には、バーニーのVRIO分析を応用すると効果的である
⑥ ゲシュタルト分析の結果を組み合わせ、エイベルのドメイン理論を拡張した修正型事業ドメインを再定義する
⑦ ドメイン案が複数存在する場合に、予想PPMを構築してみる(その際、PPMモデルをそのまま使うのではなく、代替指標を用いるたほうがやりやすい)
⑧ ⑦の結果確定したドメインを実行する際、ようやく、キャプランとノートンが提唱したバランスト・スコアカード経営の発想が役立つ
…とまあ、ざっとこんな感じです。
重畳的AD分析とゲシュタルト分析は全くの私のオリジナルですが、そこに至るまでに活用させていただいているのは、先人たちの理論であり、手法です。
一言で申し上げれば、
「戦略を立てる際、この流れで考えていけば、集団での意思決定を余儀なくされる会社であっても、理性的に事業戦略を策定することができますよ」
という内容です。
もちろん、書いた当時は満足していました。
現在も、この内容で、幾つかの企業で研修やコンサルさせていただいていますのでm(_ _)m
しかし、最近、『経営戦略全史』を読み進めながら、少し疑問に感じたのは、
「この折衷案は本当に正しい方法なのだろうか?」
という点です。
私としては、実務家の観点から評価し、それなりに、さままざまな先人たちの理論と手法の
「いいとこ取り」
をして、事業戦略策定の流れを組み立てて、理解しているつもりですし、使いこなしているつもりなのですが、よくよく考えると、各々の理論は、それなりに
「自己完結」
しているわけですよね。
エイベルのドメイン理論、ポーターの競争戦略、アンゾフの成長戦略、バーニーの資源戦略…
全部。本来、自己完結しています。
それぞれの発案者・提唱者は、「他と併用しろよ」とはいっていないわけですよね。
たとえば、ポーター。
過激なポジショニング学派の巨人です。
「ポジショニングさえきちんとできれば、後はなんとでもなるじゃないか。資源ベースの戦略とかいうけど、優先順位低すぎ…」
とまあ、こんな立場をとる方ですよね。
彼の理屈を、オセロの世界に置き換えれば、ポーターの理論は、こんな感じになりますかね笑
「四の五の言っても仕方ないよ。いい? 僕のやり方(ポジショニング理論)でやれば、四隅が取れるわけ。四隅が!! 四隅さえとれれば、後はどんなやりかたやろうが、(小学生でも)勝てるでしょうが〜。何、ごちゃごちゃと、資源ベース理論がどうとかいっているわけ??」
という感じでしょうか。
オセロですからね〜
「四隅をとる方法を示しているのであれば、他の理論の併用など不要でしょうに!!」
…となりますよね。
話を戦略論に戻しますと、そういう相手に、
「ポジショニングも大切ですが、資源ベース理論も有効ですよね。組み合わせていきましょう」
となだめても意味がありませんよね笑
大なり小なり、戦略論とはそういう性質のものであり、各々は「自己完結」しているという「建前」があるわけです。
さてさて。
さきほどご紹介申し上げた私のやってきた折衷案。
どうなんでしょうねえ〜苦笑
格闘技の世界に置き換えるとわかりやすいかもしれません。
空手、ボクシング、ムエタイ、レスリング、柔道、相撲…
各種格闘技は、敵を倒すための技術としては、各々が技術として「自己完結」しています。
しかし、私のやってきたことは、
「構えは空手から、右手の動きはボクシング、左手の動きはムエタイ、腰はレスリング、右のキックは柔道、左の軸足は相撲のように…」
ということなんですよね。
仮に私に空手の師匠がいれば、
「なに、素人が、ない頭絞って、我流で、いろいろ組み合わせているんだよ〜 俺の教えた空手に集中しろよ!!」
と、お叱りを受ける可能性があります。
いや、破門ですな。破門…笑
あくまでも、私という一人のコンサルタントのセンス・好み・理解の範囲、能力の限界の中で、現在の独自の折衷案ができあがっているにすぎないわけです。
もちろん。
今更自分のやってきたことをまるっきり否定することもできないわけですが、少なくとも、
「この方法があるから、もう学ぶ必要はないな」
「あの方法? 意味ないな。よくわかんないし」
という姿勢はいかんなあ…と再確認いたしました。
ブルーオーシャンにせよ、バランスト・スコアカード経営にせよ、批判される部分も多々あるのですが、それなりに世界的に評価を受けているわけですから、使いこなすことのできる可能性も、十分にあるのではないかと思うようになったわけです。
こういう発見ができたこと自体、驚きです。
最初は単なる経営学史のお勉強と思っていたのですが、同書を読んでとてもよかったと感じています。
もう少し、いろいろ考えてみます笑