営業の仕事がおもしろいとすれば、それは営業担当者が自ら「創意工夫」できる領域が非常に広いという点に尽きる。
少なくとも、私は、次の営業機会にはどんな提案をしてみようか、どんなサービスを盛り込もうか…と考えると、わくわくして眠れなくなる。
子供じみていると言われるかもしれないが、営業という仕事には「興奮」という楽しみがある。
結果が出れば、「興奮」「達成感」にかわり、地上にあるどんな食材もかなわない最高の酒の肴になる。
クリスマスのシャンパンも、誕生日のワインも、親友と交わす大吟醸も、契約成立の夕べに飲む一杯のビールの味には遠くおよばない。

ただし、そのためにはいくつかの前提がある。
「最高のビール」を飲み干すためには、「達成感」を味わう必要があり、「達成感」を味わうためには、「興奮」するくらいの「創意工夫」をしなければならない。
会社の販売促進部や営業本部、商品企画部や商品開発部が作成・提示する方法論やツールを「鵜呑み」にして、「そのまんま」の営業を展開したのでは、夜を徹して創意工夫しているライバルには勝てないだろうし、顧客のハートを射止めることもできないだろう。

「人と違うことをやれば良い」

とは、未来工業の創始者・山田社長の言葉であるが、これは、マネジメントの世界のみならず、営業の世界にも100%当てはまることである。

にも拘わらず、多くの営業マン・営業ウーマンが、創意工夫の機会を閉ざしている。
受動的営業、受け身の営業、上司の命令通りの営業、会社の方針通りの営業、本部の指示通りの営業さえしていれば、結果が出ると勘違いしている。

「売れないのは商品のせいだ」
「売れないのは本社のせいだ」
「売れないのは上司のせいだ」

いやいや。
違うだろう。

「売れないのは自分の創意工夫がたりないからだ」

と感じるべきである。

「売れないのは価格競争のせいだ」
「売れないのは業界のせいだ」
「売れないのは顧客のせいだ」

いやいや。
これも違うだろう。

「売れないのは自らの頭脳をフル回転させていないからだ」

と解釈すべきだろう。

ただし。
精神論をいくら語っても意味はない。
創意工夫のしかたにも、頭の使い方にも、ノウハウがあり、方法論がある。
やみくもに努力をしても意味はない。

詳細は、皆さんの前で、直接、営業研修を担当する際にお話したいと思うが(出し惜しみしているのではなく、書くと膨大な量になるためm(_ _)m)、概ね私が常日頃から気にしているのは次の点である。

 

1.自己のための時間管理術の習得

営業担当者として「まとまった時間」の確保をする工夫と環境を整備しているか。
植物を育てるためには、種まきから始めるのではなく、地ならしから始めるべきである。
「いそがしいからできない」という言い訳を自分で自分にしないためにも、確固たる時間捻出の方法を身につけるところからスタートすべきである。
それをしないで理論を学んでも「わかったけど、いそがしいからできない」となってしまい、「無駄なお勉強」に終わってしまう。

仕事の生産性を5%増し、10%増しにしよう…などとけちなことは考えずに、50倍、100倍にする方法を考えるべきである。
なんのことはない。クラウド、SNS、集合知を上手に使えば良いだけの話である。

ただし、これにはコツがある。そのまま、本に書いてあるとおりに(つまり、正面から使おうと思っても)、すぐに壁にぶち当たってしまう。
何事にも抜け道とノウハウがある。
多くの営業マン・営業ウーマンが、すばらしいことを「勉強」していながら、全然「実践」できていないのは、この問題を軽視しているからである。

 

2.事前準備の重要性の把握

従来の営業研修では、顧客を訪問する際、どのように挨拶し、どのように世間話をし、どのように本題に入り、どのように商品説明し、どのように価格を提示し、どのように契約に持ち込むか…いわば、営業現場での顧客とのやりとりを重んじることが多かった。

しかし、営業で重要なのは事前準備である。
営業に限ったことではないが(講演や研修もいっしょなので)、どれだけ多くの情報を短時間で集め、それを分析し、頭に叩きこんでおくか、その手間を惜しまないか…こちらのほうがはるかに大切である。

特に「記憶する」という行動に抵抗感を示す営業担当者が多いことに驚かされることが多い。

「え、覚えなきゃいけないんですか?」

という一言が返ってくると、ちょっとびっくりする。

「覚えるべきだと思いますよ。私が覚えるべきだと申し上げているのは、TBC受験研究会の講座の特徴ではなく、御社が販売している商品の特徴なのですから」

苦笑交じりにこう答えるしかない。

自分がものを買う場合を考えていただきたい。
カタログを棒読みし、取説を棒読みする営業担当者を信用して、ものを買うだろうか。
事前準備は中途半端にやっても意味がない。徹底しなければならない。
徹底という言葉は抽象的だから、具体的に表記しなければ精神論に陥ってしまう。

「四の五の言わずに覚えたら?」

ただそれだけの話しである。
事前準備とは「記憶」という作業なくして済ませることはできない作業なのである。

 

 

3.顧客の行動特性・思考特性別の対応

顧客への個別対応だの、ワントゥワン・マーケティングだとと理想論を唱えても、営業マン・営業ウーマンの個人としての能力と時間・労力には限界がある。
そんな特別な対応をしていては、頭がおかしくなるか、心が壊れてしまう。
ここでは、もっと単純に、しかし、効果的な方法を考えてみよう。

私がよくお話するのは、いささか古典的であるが、行動積極性と感情表現の度合いにより、顧客を4タイプに分ける方法である(行動スタイル・モデル)。
また、顧客の人間(営業担当者)への関心度の強さと製品への興味の度合いにより、1人の購買行動を4つに分ける方法も併用する(クライアント・タイプ・マトリックス・モデル)。

いずれにしても、顧客を適度に分類することにより、最適とはいえないまでも、ある程度適した営業方法を選択することができれば、失敗の度合いはかなり小さくなる。
これを知らずに、営業を行うということは、目隠しをして料理をしろというのに等しい行為である。

 

4.テスト・クロージングに基づく営業シナリオの設計

ここは話すと長くなるから割愛するが、実は最も重要なパートである。
通常、BtoB営業では、営業活動が複数のステップから構成されることが多いが、その各段階別に明確な「目標」を持つことからスタートする。

この目標というのがミソである。その目標を達成した時に、顧客への小さな質問を投げかけ、顧客がそれを肯定した瞬間に謝辞を述べる。
このプロセスこそが、顧客が心理的に納得していく重要な過程となっている。
謝辞が得られない限り、次の段階には進まない。進めないといったほうが正しいかもしれない。

一種の確認行動であるが、これを繰り返しながら、顧客とともに階段を登っていくことが、契約の成功確率を高める重要な要素となる。

このテスト・クロージング・シナリオが設計される過程で、段階別に必要な営業ツールが浮き彫りになる。
むやみやたらと営業に役立ちそうなツールを作るのではなく、シナリオの過程で必要になるツールだけ「迅速に」「確実に」準備すればよい。
それも、できるだけ、手間を掛けずに、お金をかけずに…というのが鉄則である。そのための具体的な方法は、そのへんにゴロゴロしている世の中である。
先ほど、SNSやクラウドと申し上げたが、そんなものは使わなくても、いろいろ役立つものがあるのだ。
救命救急の医師たちが、ろくな医療道具がなくても、見事な応急処置をする…というドラマや映画を思い出していただきたい。

 

 

5.営業会議の革命

これについては、以前にも、当該ブログで書いたことがある。
具体的な方法論については、こちらを参照していただきたい。
http://eiseikanri.biz/wp/takenaga/戦略的会議の開催方法/

形式的な報告や無駄な叱咤激励は一切やめて、ただひたすら、営業生産性を高めるための方法を論じ合う会議を行うべきだろう。
「4」で述べた「シナリオ(案)」を新人が作ってきたならば、そのシナリオについて先輩社員がアドバイスし、添削し、変更のためのアイディアを出す、誰かが作った営業ツールで使えるものがあれば、他の人間が転用できないかを真剣に考える…という具合である。

 

 

6.セルフ・マーケティング技法の組織的導入

BtoB営業の世界では、提供物(顧客機能、製品・役務)が固定的であり、かつ、顧客も固定的(【例】ルート営業)…というケースも少なくない。
入札(談合を除く)等の完全に合理的な方法で売り手を選択される場合には、セルフ・マーケティングの入り込む余地はないが、世の中、すべての世界で、商品と価格…すなわち、入札だけで売り手が選択されるわけではない。

「あなたから商品を買いたい」

という決定をする顧客もまだまだ存在するはずである(ちなみに、BtoC営業の世界では、顧客は比較的情緒的理由で購買を決定するため、この傾向はBtoBの世界よりもはるかに大きい)。
陳腐な言い方だが、「何を買うか」ではなく、「誰から買うか」で意思決定する顧客がいるということでである。

この場合、日頃からセルフ・マーケティングを展開し、「自分」自身を売り物として磨いている営業マン・営業ウーマンのほうがはるかに強い。

セルフ・マーケティングには、いくつかのポイントがあるが、一番重要なのは、ターゲッティング(標的顧客の設定)である。
銀行や大手金融機関の人事部の方々というのは、弊社の標的顧客であるが、この方々に対して、私が「山が好きです」とセルフ・マーケティングを行なっても意味がないのは当たり前であろう。

「あなたは誰に向かってセルフ・マーケティングを展開されているのですか?」

と尋ねられて、即答できないならば、その方のセルフ・マーケティングは根本的に間違っており、遠からず徒労に終わることは疑いがない。

ターゲッティングさえ確定すれば、あとは占めたもの。
方法論など、この世にいくらでもある。
「4」のシナリオには留意する必要があるが、あとは、自由に展開していただいてよいだろう。
大失敗はしないだろう。
「意外性」「感動」「印象」「シグナリング」「付加価値」「差別化」といった言葉を具体化する方法を考えていただきたい。

以上、要点のみの記述となる点はお許し頂きたい(わかりにくいところもあると思うので、そのへんは友人の方々とは一杯やりながらお話しましょう)。

 

最後に。
最近、私が感じている「営業において捨て去るべき固定観念」を2つあげておきたい。

 

1.「いつまでもあると思うな得意先」

これまで、情緒的な営業(人的つながりによる営業)でうまくいっていたのに、途端に顧客がシビアになり、合理的な取引(【例」入札)を余儀なくされる…ということは、このご時世、いつ何時怒っても不思議ではない。

「あの会社だけは、うちとの取引を優先してくれていたのに」

は通用しなくなることを常に覚悟しておかなければならない。
対応法は2つ。
徹底的な予防線をはるか(【例】セルフ・マーケティングで自分自身を強くアピールし、断られにくい環境を作っておく)、新規顧客の開拓を行うか。
これしかないのだ。

 

 

2.「そのままでいいと思うな営業方法」

本社、本部、上司、先輩に言われたとおり、教わったとおりの「受動態型営業」は通用しない時代になっている。
営業マン・営業ウーマンの仕事とは、社内情報、競合情報、顧客の声といった情報をを素材としつつ、自らの営業シナリオを設計し(事前準備)、実際に営業活動を展開する(当日の活動)という、いわば二面的な業務であるという認識を持っていただきたい。
「創意工夫」「興奮」「達成感」「うまいビール」が営業という仕事を最も端的にあらわすサブ・キーワードであることを忘れないでいただきたい。

 

 

景気がよくなり、日本がよくなるためには、マーケティングにおける最重要概念「交換」が、至るところで創出されなければならない。

その重要な担い手こそが、私達(私も営業マンの一人ですm(_ _)m)、営業マン・営業ウーマンなのである。