1. 改正著作権法の概要

違法配信と知りながらインターネットのサイトから有償の音楽や動画をダウンロードした場合に、2年以下の懲役または200万円以下の罰金を科す改正著作権法が今年6月の参院本会議で可決、成立しました(改正著作権法119条3項)。
改正法の施行はいよいよ明日…10月1日が予定されています。

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著作権法119条(罰則)
3 第30条第1項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償公衆提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
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今回の法改正による処罰の対象は、①有償の著作物等の、②著作権・著作隣接権を侵害する自動公衆送信を、③受信して行うデジタル方式の録音・録画を、④そうと知りながら行って著作権等を侵害した者です。
違法ダウンロード行為に対する罰則(違法ダウンロード刑罰化)が加えられたほか、DVDなどに用いられる「CSS」などの暗号型技術を回避して行う複製が違法(刑事罰はなし)となること(DVDリッピング違法化)などが盛り込まれました。

そもそも、ディスクの著作権保護技術には2種類(無断コピーを防ぐ「コピーコントロール」と、視聴を制限する「アクセスコントロール」)が存在しました。
これまでは、アクセスコントロール技術を解除してのコピーはDVDで合法でしたが、今回の法改正で違法となりました。音楽CDはDVDやBD(ブルーレイ)のような保護技術がなく、これまで通りコピーは可能です。
また、BDはいずれの保護技術も解除することができず、もともとコピーができません。

違法にアップロードされた音楽・映像を違法と知りながらダウンロードする行為については、2009年の前回改正において、私的使用目的の複製の範囲外とされ、違法とされていましたが、罰則までは設けられていませんでした。

今回の改正では、このうち有償の音楽や動画を違法ダウンロードする行為に対し、懲役または罰金、あるいはその双方と規定しています。
非常に強い罰則規定が盛り込まれた法律であり、驚かれた方も多かったのではないでしょうか。

音楽業界は海賊版の抑止効果を期待していますが、ネット利用者からは「あまりにも厳罰化が進むのではないか」といった批判の声が上がっています。
法律に違反すれば誰もが刑事罰を受けるというものではなく、著作権者など被害者の告訴がないと起訴できない親告罪になっているのが救いです。

企業内のパソコンのハードディスクに、購入したDVDのデータをコピーしている企業は珍しくありません。
しかし、改正法が施行されれば、警告なく、いきなりの逮捕…ということも十分に考えれます。
法人であれ、個人であれ、今回の法改正がどのような性格のものであり、「何がセーフで」「何がアウト」なのか…これについては正しい知識を持つことが最大の自衛手段となるでしょう。

 

2. 法改正の背景

現行の著作権法においても、いわゆるアップロード行為は禁止されています。
すなわち、著作権者の許諾なしに音楽や動画をサイトにアップロードする行為には、10年以下の懲役または1千万円以下の罰金が科されています。

ダウンロードする行為も違法でしたが、これまでは罰則規定がありませんでした。
ですから、音楽業界が、CDやDVDがネットを通じて違法配信される被害が減らないとして、法改正を求めていました。
つまり、「ザル法だ」という指摘があったということです。

一方、違法配信かどうか利用者には分かりづらい場合も多く、警察の意図的な運用を招きかねないとして、ネット利用者を中心に罰則化反対の声があがっています。

そもそも、音楽や映画の作品を作った作者には、著作権が与えられています。
著作権とは、著作権法によって、無断で作品を利用(コピーやインターネットで送信すること等)させない権利です。
著作権は、著作者の権利保護を第一の目的とした法律ですが、実際には、非常に例外規定が多い法律です(著作権法30条〜50条)。

たとえば、私達が自分自身で楽しむことを目的に、音楽や映画をパソコンなどでコピーする行為は、作者に了解を得なくても、基本的に自由に行ってよいのです。
これを私的使用といいます(同法30条1項)。
法人・個人を問わず、認められている制度です。

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30条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二  技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
三  著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
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しかし、インターネット上にある音楽や映画の中には、作者に無断でアップロード(掲載)されたもの(海賊版)がうようよしています。
たとえ個人的に楽しむことが目的であったとしても、海賊版の音楽や映画を、海賊版であると知りながらパソコンなどにダウンロード(取込み)すれば、「違法ダウンロード」となります。

なお、違法ダウンロードの対象となる行為は、音楽の場合のように録音することや、映画の場合のように録画することを指しますので、これ以外の行為については、今回の規制の対象外となります。

また、無料で放送されているテレビの番組の海賊版をダウンロードする行為も、原則として刑罰の対象にはなりません。
ただし、例外として、テレビ番組であっても、DVDとして正規に売られているようなもの(ドラマなど)については、その番組の海賊版を、海賊版だと知りながらダウンロードすると刑罰の対象となります。

無料で放送されるテレビ番組であっても、作者に無断でインターネット上にアップロードされているものをダウンロードすることは、今回の法改正で課せられる刑罰の対象ではないものの、違法行為です。
つまり、「有償」「知りながら」という2点がポイントになるわけです。

海賊版ではない音楽や映画かどうかを知る方法として、音楽や映画がのっているホームページに「エルマーク」というマークがついているかどうかを確認する方法があります。

エルマーク


「エルマーク」
は、レコード会社・映像製作会社との契約によってコンテンツを配信しているパソコン向けサイトや携帯電話向けサイトなど、音楽・映像配信事業者数の92%以上に表示されています(政府広報による)。
ホームページに「エルマーク」がついていれば、安心してダウンロードできます。

 

3. 具体的な規制の内容

単に見たり聞いたりすることは、違法ではなく、刑罰の対象にもなりません。
今回の法律の焦点となっているのは「違法ダウンロード」ですから、音楽や映画の海賊版について、ホームページ上にあるものを、インターネットを通じてダウンロードしなければ、刑罰の対象にはなりません。

たとえば、メールで送られてきた海賊版を自分のパソコンにコピーする場合は、ホームページ上にあるものをインターネットを通じてダウンロードする場合に当たりません。

ただし、音楽や映画をメールにコピーして送る場合、メールを送る人が、個人的な範囲を超えてメールを送ると、そのメールを送る際に行われる音楽や映画のコピーは、原則として違法となります。

罰則の対象は、あくまでも、ファイル共有ソフトやオンラインストレージで無断提供される、「動画と音楽」のダウンロードです。「動画と音楽」ですから、「写真や漫画・イラスト等」を自分が見るためにパソコンにコピーすることは、録音や録画に当たりません。

YouTubeやニコニコ動画などのストリーミングサービスを閲覧するとパソコン内にキャッシュが生成されます。これを視聴する行為が違法かどうかについては、最終的には裁判所の判断になりますが、違法と成る可能性は低いと考えられています。

いわゆる「ストリーミング」視聴の場合には、ユーザー側で恒久的な保存は通常されず、キャッシュ保存程度です。ブラウザー視聴に技術的に伴うデータ保存などでは「録音・録画」に該当するとは考えにくいです。

ちなみに、著作権法には、こうした場合を想定したコンピュータ(条文の中では「電子計算機」)内部におけるデータ保存を認める例外規定があります(47条の8)。

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(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
47条の8  電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。
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今回の刑罰規定には明確に記されているわけではありませんが、著作権法の他の条文で適法と認められる利を処罰対象にする可能性は低いでしょう。

なお、裁判所の判断ではありませんが、文化庁は以前から、YouTubeなどの視聴は違法でないという立場を採っています。
罪刑法定主義(いかなる行為が犯罪となるか,それにいかなる刑罰が科せられるかは既定の法律によってのみ定められるとする考え方)によれば、不意打ち的に、YouTubeの視聴を取り締まるというのは行き過ぎですよね。

ただし、専用ツール(アプリなど)を使ってYouTubeやニコニコ動画から動画を「ダウンロード」すれば、当然、処罰される可能性がありますので、この点は要注意です。

今回の法改正は、個人・法人ともに、慎重に対応することが望まれます。

昔から「君子危うきに近寄らず」と言いますが、YouTubeのストリーミング視聴や写真のダウンロードは対象外ですし、また、無償提供されている動画や音楽も対象外です。何でもかんでも規制されるわけではありませんので、「アウトとセーフの範囲」の原則は知っておいたほうが良いでしょう。

また、経営者や管理者の皆様は、こういった情報についての社内勉強会(20分くらいで澄んでしまいますので)を開催したり、マニュアルを作成・配布するなど、社内法教育の徹底にこころがけてください。その際、下記の記事やHPを参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

【参考記事】
■IT羅針盤-違法ダウンロードに刑事罰 DVDリッピングも違法へ-著作権法改正で違法ダウンロードは2年以下の懲役、200万円以下の罰金 2012/07/24 日経PC217ページ
■  違法ダウンロード、刑事罰新設でどう変わる?(Q&A)-著作権法改正で10月から規制強化 2012/06/23 07:00 日本経済新聞電子版セクション
■ 違法配信で著作権法改正、ダウンロードも刑事罰 2012/06/21 秋田魁新報 朝刊 25ページ
■  【私も言いたい】テーマ「違法ダウンロード罰則化」 2012/05/25 産経新聞 大阪朝刊 13ページ

【参考HP】
■ 政府広報オンライン http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200908/2.html
■ 文化庁HP http://www.bunka.go.jp/chosakuken/download_qa/pdf/dl_qa_ver2.pdf