SNSの発達に伴って、さまざまな派生組織が芽生え、精力的に活動しています。
私が主催する「ビジネス雑談サロン」は組織ではありませんが(毎回メンバーは変わりますし、名簿もありませんし…)、他の方が主催する組織のいくつかに、私も名前を連ねています。

ここでは、そういった、SNSがきっかけで構成されたリアルな人的な集団を「SNS派生組織」と呼び、その運営方法を考えたいと思います。
特に問題となるのが、自然発生的にスタートしたSNS派生組織が、営利的に活動しようという転換期を迎えた時です。
いろいろな人的な軋轢が生じやすいのがこの時期です。

京セラの稲森さんが提唱した組織に「アメーバ組織」があります。
アメーバ組織の本来の意味は、小集団部門別採算制度に基礎を置いた全員参加型の分権的経営システムのことであり、企業組織を自律的小集団である「アメーバ」に細分化し、それらが相互に協調・競争することでリーダー育成と継続的な創意工夫を促すとともに、経営環境の変化に即応できる体制を作ることを目指すというものです。

本来は企業の中で用いられるべきアメーバ組織の考え方は、SNS派生組織が、何らかの営利的な組織に発展していこうとした場合に転用・応用できるものです。

ちなみに、SNS派生組織が、非営利的な組織にとどまっている場合には、アメーバ組織を意識する必要はありません。
ですが、何かのきっかけで、営利的な組織に発展していこうとなった場合には(要するに、「お金を儲けよう」となった場合には)、組織の構成メンバーのベクトルがそろわず、何も決議できず、何ヶ月もそのままの状態となり、最終的には元の木阿弥…となってしまうことも珍しくありません。

この時、役に立つ考え方が、前述したアメーバ組織の考え方です。もっとも、すべて、そのままというわけには参りません。あくまでも、転用・応用に留めるべきでしょう。

具体的な運営のシナリオをみていきましょう。

1.SNS派生組織全体の運営

SNS派生組織全体としては、ベクトルの違う人間がたくさんいるので、簡単な抽象的なルール(会則)で括るにとどめます。
後から複雑で具体的なルールをたくさん入れていくと

「話が違うじゃないか」
「居心地が悪くなった」

と感じる方や、既得権を主張する方などが出てくるので、それを避けるのです(少なくとも初期の段階では)。
ですから、全体を括るルールは。簡単で抽象的なルールでよいのです(少なくとも初期の段階では)。

「簡単で抽象的なルール」

というのは、たとえば、

「後付けですが、メンバーが増えてきたので、簡単な会則を作りました。全部で以下の5か条です。皆さん、よろしく!」

という程度のものです。

これならば

「窮屈になった」
「居心地が悪くなった」

と思う方はほとんどいらっしゃらないでしょう。
一方で、非公式な集団が、一応、「組織」になっていることを、「会則」を通じて、なんとなく感じることはできるようになります。微弱電流を流すようなものです。

漢の高祖・劉邦が天下を取った時、法は簡単なものがよいとし、法三章の考え方を明らかにしましたが、この故事はとても参考になります。
法三章とは、漢の高祖が、秦の煩雑な法を廃止して発布した、殺人・傷害・窃盗のみを罰するという三ヵ条の法のことです。転じて、法律を極めて簡略にすることのたとえです。
SNS派生組織も、法三章の精神が重要だと思います(少なくとも初期の段階では)。

実際にはなかなか、5か条だ、法三章だ…では収まらないと思いますが、できるだけ「簡単に」とする精神は忘れずにおきたいものです。

2.プロジェクト・チーム制度による事業運営

一方。
営利的な事業をしたいと考えるメンバーは、すべて、プロジェクト・チーム制をとるのがよいでしょう。

たとえば、

① イベントを開く
② セミナーを開く
③ 出版する

といった事業により、収益をあげたいと思ったメンバーが存在する場合、各々の事業につき、1つの時限的プロジェクト・チームを形成し、「小集団部門別採算制度に基礎を置いた全員参加型の分権的経営システム」アメーバ組織化にしてしまうと、話が早いのです。
わざわざこういう言い方をするのは、組織全体での「賛成・反対」の決議を必要にしてしまうと、結局何も決まらない(どのプロジェクトも動かない)という意味です。

国会がもし総会だけであれば、何も決まりません。
各々の委員会が個別でいろいろなことを動かしているのといっしょです。

もっとも国会の場合には、最終的に総会でいろいろなことを意思決定するわけですが(たとえ、形骸的にせよ)、SNS派生組織の場合、

「総会主義」

では、何も決まらなくなります。皆さん、ご自身の利害に基づく主張をされる可能性が高いからです。

では、どこが決議・承認をするかというと、ここでは、

① そもそも決議・承認など必要ない、自由にやってよい…とする
② 少数の理事による理事会を構成し、彼らにその意思決定を委ねる

という2つの選択肢があります。

私個人としては、①でもいいな…と思うのですが、SNS派生組織の中に、いろいろな方がいるのであれば、現実的には、②とするほうがよいでしょう。

特に、強力なリーダーシップを発揮してくれる理事がいれば、②でもうまくいくでしょう。
ただし、②はあくまでも、決議・承認をするに過ぎず(決議機関)、事業の主体は、各プロジェクト・チームが責任をもって、企画・運営・遂行するものとします(執行機関)。

各プロジェクト・チームの運営については、まったくもって、彼ら(メンバー)の自由でよいと思いますが、

① リーダーとサブ・リーダー、メンバーのリスト
② 連絡先
③ 責任の所在
④ 予算(投資や経費が必要な場合、その概算)
⑤ 利益の分配方法
⑥ スケジュール

等は、理事会がある場合は理事会に、理事会がない場合には総会に(またはSNS派生組織の会員全員に)、通知または報告しておくべきです。

たとえば、④「利益の分配方法」についてSNS派生組織全体が会費から経費を援助する場合には、その見返りに「利益の5%をSNS派生組織全体に」というような分配方法も考えられます。一方、一切の経費援助を受けない場合には、SNS派生組織へのキックバックはしない…というルールも考えられます。

私はよく、プロジェクト・チームの3要素というのを、企業研修等でお話ししています。
次の3つをきちんと決めることが、プロジェクト・チームの必要条件になっているからです。

① 人(リーダーとメンバーの選定)
② 時間(スケジュールとアウトプットのタイミング)
③ 金(予算)

3.事業の成功のポイント

さて。
ここまでは、形式論・組織論ですが、今度は、プロジェクト・チームが事業(イベント・セミナー・出版等)を行う場合の成功のポイントをお話いたしましょう。

それは、

「議論の際には、常にたたき台を用意せよ」

という点です。
こと、企業内であれば、必ずといってよいほど、会議には「たたき台」が用意されます。
計画の概要、事業のグランド・デザイン、契約のドラフト・・・です。
どんなに不完全なものでも、これがあれば、ある程度、生産的な会議を行うことができます。

しかし、SNSから派生した組織の場合、たとえそれが、少人数のプロジェクト・チームであったとしても、

「手ぶら」

でミーティングにやって来る方が多いのが現状です(「手ぶら族問題」といいます)。

「誰かがやってくれるだろう」
「誰かが決めてくれるだろう」
「私がやることはないだろう」

という風潮をゼロにはできません。

ここは難しいところです。
皆さん、本業もあるだろうし、プライベートな他のおつきあいもあるだろうし…時間がないのは、重々承知です。
それでも、全員が他人任せになると、コトはうまく運びません。

営利的組織になろうという場合には、生産性が重要になりますから、無駄な会議、意味のないミーティングは極力避けたいものです。
そうでないと、すべてが、精神的なコストとなって、メンバーの負担になってしまいます。
結果として「労多くして功少なし」となってしまっては、次回へのモチベーションにならないのです。

ですから、

「誰かが責任をもってたたき台を作ってくる」

ことを厳守すべきです。

これは、持ち回りとか、当番制にすべきではありません(重要)。
人間、得手不得手、得意不得意がありますから、たたき台を作ってくるのは、毎回、プロジェクト・チームの中では、得意な方にお願いしたほうがいいでしょう。

おそらくは、

「プロジェクト・リーダー」

ということになるでしょう。

つまり、企業内における本来のアメーバ型組織は、「小集団部門別採算制度に基礎を置いた全員参加型の分権的経営システム」ですが、SNS派生組織におけるプロジェクト・チームの中では、「強力なリーダーシップ」の存在が不可欠となるということです(もちろん、リーダーはどんと構えていてまとめ役となり、「たたき台」は、毎回、参謀的なサブ・リーダーが作ってくるというケースもあります。本来、こちらのほうがいいかもしれません)。

「最終的に私が責任をとるから、みんなついてきてね」
「たたき台は毎回作ってくるから、みんなの意見を聞かせてね」

というリーダーがいないと、そのプロジェクトはうまくいかないでしょう。

完全合議制では何も決まらないのです。

最終的な利益配分についても、当然、リーダーが多めに貰い受ける…というほうが公平感があります。

「不公平だ」

という方がいれば、その方は自分でプロジェクトを立ち上げればよいのです。

強力なリーダーシップの存在という点では、各プロジェクトのみならず、SNS派生組織全体の運営や理事会の運営についても同じことがいえます。非営利的組織の段階では「ごっこ」でよかったことが、営利組織となるやいなや、許されなくなります。責任をとってくれる強力なリーダーがいるならば(いろいろ反対意見はあるにせよ)、きちんと選出し、役割を果たしていただいたほうが話は早いでしょう。

4.プロジェクト間競合問題

さて。
こういう場合を考えてみましょう。
ほぼ同じイベントを、会員である甲さんが率いるプロジェクト・チームAと乙さんが率いるプロジェクト・チームBから、提案があった場合です。
理事会(があればの話ですが)としては、どうさばけばよいでしょうか。

この場合、

① 先願制(先に理事会に話を持ってきた方に優先権を持たせる)
② くじびき(先後願に関係なく、くじびきで決定する)
③ 競争(両者を競争させ、よりよいものを目指させる)
④ 合併(2つのプロジェクト・チームを合併してしまう)

という4つの選択肢があります。

個人的には、③の「競争」がおもしろいと思います。本来のアメーバ組織は「競争」が大前提ですので。
が、人間関係が破綻する可能性もありますよね。
両プロジェクト・チームに入っていない会員丙さんのところに、甲さんからも乙さんからもお誘いがあり、協力を要請されれば、丙さんとしては困ってしまいます。甲さんに協力すれば、丙さんから疎まれるでしょうし、乙さんに協力すれば、甲さんから嫌われかねません。
④も一見よさそうですが、理想でしょうね。うまくいく可能性は低いです。理由は次の3点。

① プロジェクト・チームが大きくなり、機動性がなくなる
② リーダー的存在が2人になり、内部分裂するおそれがある
③ 分前が減る笑

というわけで、私としては、

① 先願制(先に理事会に話を持ってきた方に優先権を持たせる)
② くじびき(先後願に関係なく、くじびきで決定する)

がオススメです。
はじめから決めておけば、問題ないでしょう。

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SNS派生組織の営利化
SNSで知り合った仲間同士での活動がビジネスにつながっていく…
非常にすばらしい流れであり、歓迎すべきストーリーです。
ですが、なんでもそうなのですが、「お金が絡む」といろいろなことが問題になります。
ひとつひとつしっかりと対処し、組織全体が空中分解することのないように、みんなで考えてみてください。
「アメーバ組織」もそのひとつでしたが、既存の組織論をそのまんまそっくり活用できるとは限りません。転用や応用を試みること。これが肝要です。
そのためのお手伝いであれば、可能な限り、相談に乗らせていただきたいと思います。