❐梶田教授のノーベル賞受賞はなぜすごいのか❐おはようございます。梶田隆章教授のノーベル物理学賞受賞決定がニュースとなり、再び、素粒子物理学にスポットがあたっていますね。というわけで、今朝は、なぜ、梶田先生の業績がすごいのか、そして、最近の素粒子物理学の世界の概要がどうなっているのか、これらについて、ちょっとだけ、書き留めておきたいと思います。

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1.私の子供の頃の素粒子は…
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素粒子とは、それ以上分解することができない物質の最小単位のことです。

大昔は、それが

「原子」

とされてきたのですが、実際には、原子は更に小さな素粒子からできていることが判明しました。

科学が進むと、新たな、つまり、より小さな素粒子へと分解できるようになるわけです。

私が子供の頃、素粒子といえば、原子よりも小さな

① 陽子
② 中性子
③ 電子

が代表例でした。

陽子と中性子が原子核を構成し(それゆえ、この2つは核子とも総称されます)、その周りを電子が回ることで、原子ができあがっていると習ったものです。

太陽系のような原子モデルを皆さんも一度はご覧になったことがありますよね。

この原子核の周りを電子が回る…というモデルも、実際の原子の構造とは随分違うようですが、ま、今日のところはおいておきましょう。

さて、原子を構成する「当時の素粒子」…

① 陽子
② 中性子
③ 電子

ですが、このうち、③の電子は今も素粒子としての地位を保っていますが、①の陽子、②の中性子は、とっくに、素粒子としての地位を失っています 笑

では、今時は、どのような物質を素粒子とみなしているのか。

まずは、「クォーク」という聞き慣れない素粒子からご紹介申し上げましょう。

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2.クォークとは何か
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実は、陽子や中性子の中には、

「クォーク」

という粒子が入っていることがわかったのです。

このクォークこそ、新たな、そして、現役の素粒子なのです。

言い方を変えると、クォークという素粒子が集まって、陽子や中性子は構成されているということになります。

具体的には、クォークが3つ集まって、陽子や中性子は成り立っているのです。
クォークはその性質によって、さらに6つの種類が存在することが確認されています。

実は、

「クォークには6つ以上の種類があるはずだ」

と予言したのが、これまたノーベル物理学賞を受賞したわが国物理学界の大御所…小林・益川両教授なんです。1995年に彼らの予言が実験で確認され、めでたく受賞と相成ったわけです。

クォークは1960年代にその存在が提唱され、1995年までに6つのクォークがすべて観測されています。両教授の受賞は、だからこそ1995年なのでしょうね。
「予言的中が確定した年」ということですね。

陽子と中性子は、ともに3個(同じ種類のクォーク2個と別な種類のクォーク1個の2種3個)のクォークから成り立っていますが、そこに使われるクォークの種類の組み合わせが異なるのです。

ところで。
ノーベル物理学賞といえば、日本人初の受賞者は湯川秀樹博士です。

先日結婚された福山雅治さんが『ガリレオ』というテレビドラマで演じる物理学者「湯川先生」は、湯川秀樹博士に対するオマージュですよね。

湯川博士(福山さん演じる「湯川先生」じゃないですよ 笑)は、ミクロな世界の現象を説明するために、

「中間子」

という新たな粒子を提唱し、これがノーベル賞受賞のきっかけとなっています。

中間子には実はいろいろな種類のものがあり、湯川博士の提唱したものは、

「π(パイ)中間子」

と呼ばれています。

これら、中間子も、実は素粒子ではないんです。
陽子や中性子同様、もっと小さな粒子の寄せ集めなんです。

で、どんな粒子の寄せ集めかというと、実は、これもまた

「クォーク」

の寄せ集めなんです。

陽子や中性子は3個のクォークから成り立っていましたが、中間子は2個のクォークから成り立っていることがわかっています(厳密に言うと、中間子は、1つのクォークと1つの反クォークという反物質(反粒子)とから成り立っているんですが、話がややこしくなるので今日は反物質(反粒子)の話は割愛します)。

原子の質量の大半(というかほとんど)は原子核を構成する陽子と中性子が占めています(これらの間を行ったり来たりするのが、中間子です)。

ですから、世の中が原子で出来ているとすると、更に細かく見れば、概ね陽子や中性子でできているわけであり、更に更に細かく見ていけば、世の中は概ねクォークでできているとみることができるわけです(ダークマターとか、ダークエネルギーについては今回は無視します)。

ま、言ってみれば、クォークが物質の最小単位(ま、あくまでも今のところですがね笑)であることがおわかりいただけましたよね。

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3.こんなにあるんだ、素粒子は
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原子を構成する陽子や中性子のいずれもが、もっと小さなクォークからなりたっていたわけですから、素粒子は、

① 電子
② クォーク(6種類)

の7つだったのだと、私たちは、

「知識の書き換え」

を余儀なくされたわけです。

これだけで済んでくれれば話は簡単なんですが、そうは問屋がおろしません。

実は、現在のところ、素粒子は、17種類あることがわかっているんです!!

17種類ですよ!!
17種類!!!!!!

ちょっとうんざりするくらい増えちゃっているんですよ_| ̄|○

でもまあ、そのうちの7種類が、6種類のクォークと電子というわけです。

当然、

「じゃあ、残りの10種類は???」

…と思っちゃいますよね。

でも、ここで残り10種類を全部説明するのも大変なので、今日は、代表的なものだけをご紹介しておきましょう。

残りの10種類のうち、1つは、

「光子(フォトン)」

です。
光子ロケットとか、光子力ビームとか…結構耳にしたことのある粒子だと思います。

光のもとになる粒子であり、質量はありません。
前述した電子にも、クォークにも、質量はあります。
だから、陽子や中性子も質量があることになり、さらに電子を加えた原子全体にも当然ながら質量はああります。でないと、原子で出来ている私達の体重も「ゼロ」ということになっちゃいますからね(それはそれで嬉しいことですが‥ ダイエットのいらない世界 笑)。

「質量がない」

というのも妙なのですが、素粒子の中にはそういう性質のものもあるということです。
その代表が光子です。不思議ですねえ。

とにかく、光子は質量がないんです。
質量がない、世界で一番軽い物質ゆえ、光速という世界で一番速いスピードで運動することができるわけです。

光のスピードはおよそ秒速30万キロですが、これより速く運動できる物質は世の中にはありません。

というわけで、残り10種類のうちの1つは光子なわけです。

これで、残り9種類。
他はどうでしょうか。

じゃあ、ちょっと、あまり聞いたことのない素粒子を1つご紹介しましょう。

さきほど、陽子や中性子は3個(2種3個)のクォークから、中間子は2個(2種2個)のクォークから構成されていると申し上げましたよね。

で、もし、皆さんが、

「単独のクォークを取り出して、瓶詰めにしたい!」

と思ったとしましょう。

ところが、このクォーク。
陽子・中性子・中間子の中で、固く結びついてしまって、どうしても、

「1つだけ(単独で)取り出す」

ことができないんです。
当然、1つだけを瓶詰めにすることもできません。

陽子や中性子、あるいは、電子は1つだけ取り出すことはできるんですがね。
クォークは1つだけ取り出して、直に見ることはできないんです。

なぜかというと、クォーク同士は、アロンアルファのような強力な糊でくっついてしまっているからなんですね。

このクォーク同士をくっつけているアロンアルファのような存在も、実は素粒子(クォークとは別の種類の素粒子)だとされています。
この素粒子は、「グルーオン」と呼ばれています。
今日ご紹介する9番目の素粒子ですね。

グルーオンの和訳は「膠着子」あるいは「糊粒子」。
なんとも、ベタな和訳です。

あ、このグルーオンにも質量はありません。
この点は、光子と同じ。不思議な粒子ですね。

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4.話題になったあの粒子
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さてさて。

① 電子
② クォーク(6種類)
③ 光子
④ グルーオン

クォークだけで6種類ありますから、17種類あると判明している素粒子のうち、これで9種類の紹介が終わりました。
(6種類のクォークについて詳述するとこれまたややこしいので、またの機会にいたしましょう。)

残りは8種類。
全部は紹介できませんが、あと2つだけ紹介させてください。

いずれも、私達が

「耳にしたことのある」

素粒子が登場しますので。

では、そのうちのまず1つから。

それは…

「ヒッグス粒子」

です。

どこかで聞いたことありませんか?

そうそう。
2年位前、2013年のノーベル物理学賞を受賞されたヒッグス博士。
彼が予言し、そして、実験を通じて(別な科学者によって)存在を確認されたヒッグス粒子のことです。

ヒッグス粒子がどのようなものかを説明するのはとても難しいのですが(私もよくわからない)、一般には、

「物質に質量を与えてくれる素粒子」

と説明されることが多いですよね。

「ヒッグス粒子さえ見つかれば、素粒子物理学の体系が完成するのになあ」

と、発見・確認が待ち望まれていた最後の素粒子だったわけです。

この

「素粒子物理学の体系」

と、私が表現した理論体系は、一般に、

「標準理論(標準模型)」

と呼ばれています。

素粒子物理学の1つの到達点です。
逆にいえば、標準理論とは、17種類の素粒子のうち、重力子という未発見の素粒子を除く16種類の素粒子があることを前提に、ミクロの世界を”ほぼ”うまく説明できるモデルなのです。

重力子は、まだ発見されていない素粒子で、重力を伝える素粒子だとされています。
もっとも、先ほど述べた標準理論には登場しない素粒子なので、今日は詳細を割愛します。

標準理論を唱える学者たちは、重力子を除く16種類の素粒子の存在を確定したかったわけです。

そのうち、ヒッグス粒子を除く15種類はすでに発見されていましたので、ヒッグス粒子の発見は、大きなニュースとして報じられたわけです。

アマチュアながら、私も、2年前、

「ああ、見つかってよかったなあ。ヒッグス粒子」

と、胸をなでおろしたものです。

「これで、標準理論も完成。めでたし、めでたし」

といきたいところなのですが、手放しで喜べるほどのハッピーエンドな状況でもないのです。

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5.これでいいのか、標準理論?
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実は、標準理論はよくできたモデルではあるのですが、いくつかの弱点(穴)があるのです。

完全無欠な理論ではないんですよ。

反対派の学者たちからすれば、

「突っ込みどころ満載じゃないか!」
という理論のようです。

ですから、先ほども、

「ミクロの世界を”ほぼ”うまく説明できるモデル」

という微妙な表現をしたわけです。

突っ込みどころの1つが、「ニュートリノの質量問題」でした。

「ニュートリノ」

どうですか?
皆さん、この物質の名前はお聞きになったことがありませんか?

そうです、そうです。

「カミオカンデ」

という日本の巨大観測装置を通じて、小柴教授がその存在を観測したことで一躍メジャーになった粒子。

実はこれもまた、素粒子17種のうちの1つなのです。
当然、標準理論で必要な16種類の素粒子の1つでもありました。

というわけで、今日ご紹介したかった最後の素粒子は、このニュートリノだったです。

ニュートリノ。
大抵の物質を通りぬけ、宇宙をビュンビュン駆け巡っている謎の粒子ですね。

さてさて。
ここまでをちょっと振り返って、これまでに登場した素粒子と一緒に並べてみましょう。

本来17種類ある素粒子のうち、今日は代表的な11種類を紹介しています(クォークだけで6種類ありますので)。

① 電子
② クォーク(6種類)
陽子・中性子・中間子を構成する素粒子。
③ 光子
質量ゼロ。光速で運動する。
④ グルーオン
別名糊粒子。クォークを固く結びつけるアロンアルファ的存在。
⑤ ヒッグス粒子
質量の源。
⑥ ニュートリノ
小柴教授がカミオカンデで観測して話題に。謎の粒子。

合計11種類。
残りの6種類は今日は割愛しましょう(このうちの1つである未発見の素粒子である重力子だけはちょっとだけお話しましたが…)。

話をニュートリノに戻します。

前述したとおり、ニュートリノはまだまだ謎に満ちた素粒子なのですが、今日お話した素粒子の中では、分類上は、光子に近いタイプです(電子とともに、「レプトン(軽粒子)」と呼ばれる素粒子のグループに分類されます。ニュートリノも電子も、とても軽い素粒子なのです)。

前述した標準理論は、このニュートリノは、

「質量のないもの」

という前提でできあがったモデルであり、理論体系なのです。

質量がない素粒子としては、すでに、光子とグルーオン(糊粒子)をご紹介していますが、標準理論では、ニュートリノも質量がないものとされていたのです。
ところが、近年になって、

「いやいや。ニュートリノには質量がありましたよ。だって、スーパーカミオカンデで観測しちゃったんだもの」

という「困った事態(笑)」が起こったのです。

今回、ノーベル物理学賞の受賞が決まった梶田教授らが、1996年よりスーパーカミオカンデでニュートリノを観測した結果、ニュートリノが質量を持つことを確認したのです。

梶田教授のノーベル賞受賞理由はこの「世紀の大発見」にあったわけです。

「スーパーカミオカンデ」とは、小柴教授がお使いになったカミオカンデの強化版の観測装置です。

カミオカンデが「マジンガーZ」だとすれば、スーパーカミオカンデは「グレートマジンガー」ですな。

わかりにくいですか?
では別な比喩で…

カミオカンデが「ゲッターロボ」だとすれば、スーパーカミオカンデは「ゲッターロボG」ですな。

あ。
なお、わかりにくいですか?
え? 比喩はいらない。
あ、そうですね。

話を続けましょう。

梶田隆章教授。
私と同郷の埼玉県ご出身。
私の母校のライバルの川越高校ご出身。映画『ウォーターボーイズ』で有名になった学校ですな。
そして、埼玉大学を卒業されています。すごい! 埼大OB初の快挙ですね!!!
埼玉・浦和の人間としてもとてもうれしいです。
今や、東大と京大だけのものではないですね〜 ノーベル賞は(@_@)

この梶田教授の恩師が前述したカミオカンデの小柴教授ですね(梶田教授の博士課程における指導教員が小柴教授でした)。

というわけで、梶田教授によって、

「ニュートリノには質量がある」

ということが発見されてしまったわけです(専門的な用語を使えば、「ニュートリノ振動」という現象が観測されたということです)。

これは、とんでもなく”すごいこと”なわけです。

ニュートリノに質量があるとなると、”ほぼ”完成していたはずの

「標準理論」

が、大きな矛盾をはらんだ理論であることが確定してしまうからですよね
(T_T)

たとえるなら、数学・幾何学の世界に置き換えれば、

「いやあ、(ユークリッド幾何学の世界において)内角の和が180度にならない三角形を見つけちゃったんだよねえ〜」

というくらいの大問題なわけです。

もし、そんな発見があれば、現在の数学・幾何学の体系は音を立てて崩れますよね(@_@)

ま、今回は物理学の世界でのお話。

標準理論が、この発見によって、素粒子物理学全体が音を立てて崩れてしまうというところまで追い詰められているのかどうか、私にはわかりません。
あるいは、何らかの修正を行えば、依然として十分に通用する理論なのかもしれません。

が、とにかく、

「標準理論はこれで完成だね。めでたし、めでたし」

という大団円を未だ迎えることができていないということだけは確かなのです。

というわけで、標準理論に風穴を開ける

「ニュートリノに質量がある」

という事実を発見した梶田教授が、ノーベル賞を受賞された…ということは、素粒子物理学会では、おめでたい話題ながらも、実は、ショッキングなニュースだったのかもしれません。
業績から考えて、受賞は時間の問題だったで、心の準備はできていたと思うのですがね(^^)

標準理論は、他にもたくさん未解決な穴がありますからね。
ニュートリノ質量問題さえ解決すれば、万事オッケーというものでもないようです。

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さてさて。
それでは、今日の復習。

① かつて素粒子だと思われていた陽子や中性子は、実は素粒子ではなかった(これらはクォークというより小さな粒子から構成されていることがわかった)
② 今や、素粒子は、電子・6種類のクォーク・光子・グルーオン・ニュートリノ・ヒッグス粒子をはじめ17種類存在することがわかっている
③ 17種類の素粒子のうちの16種類の素粒子の存在を前提にミクロの世界を”ほぼ”うまく説明できるモデルを「標準理論(標準模型)」という
④ 標準理論でも扱う16種類の素粒子のうちの最後の1つだったヒッグス粒子の存在が、最近になって発見・確認され、話題になった
⑤ 一方で、ニュートリノという素粒子には質量がないという前提で構築されている標準理論は、梶田教授による「ニュートリノの質量の発見」により、矛盾を抱えた理論であることが明らかになってしまった

…ということでした。

いかがでしたでしょうか。
なんとなくでけっこうなので、ご理解いただけましたでしょうか。

いずれにしても。
素粒子の世界は奥が深いですね。

前途遼遠。艱難辛苦。七転八倒。七転び八起き。

私が死ぬまでに、まだまだ、理論は二転三転するのでしょうね。

ファンの1人として、楽しませていただきたいと思います。
世界中の素粒子物理学の先生方、どうか、よろしくお願いいたします(^^)