また、電車が止まった。
最近の京浜東北線はよく止まる。
しかたがない。Facebookでも覗いて暇をつぶすか。
ニュースフィードに流れる自分に近しい人々の日々の情報。
そういえば、最近、ちょっと気になっている中小企業診断士が1人いる。
あ、これこれ。彼だ。
今日もまた、新しい書き込みをしている。
よく続く。
よくもまあ、毎日、発信する情報があるものだ。
今日はどんなことを書いているのか。
一応、目を通しておこう。
「私はFacebookで知り合った方々との関係をリアルな世界に拡張し、ビジネスのつながりにしていきたいのです」
おいおい、この人、真剣にこんなこといっているのかね。
だいたい、こんなところ(Facebook)で、何すればビジネスになるんだよ。
この間も、知らない人にメッセージ送って、無視されたし、情報交換したいって、メッセージ送って、それなりに情報交換して、友達になったと思ったら、友達からいつの間にか抜けてたやつもいた。すっかり、こっちはすっかりSNS不信ですよ。
何が、これからの新たなコミュニケーションの基盤だよ。
通ってる学校のみんなにチュニジアが変わった、何百万人を超えた、みんなもFacebookに参加して、自らを変えよう!そうやってこの間はりきって、プレゼンしたばっかりだけど。
責任感で、こうやって、がんばって投稿してるけど、結局、このざまだ。
電車は混んできてた。
「あいってって。押すなって」
こんな思いして、こっちは真剣にやってんのに、友達は全然増えないし。
いやそれよりか、減っている。
期待すれば期待するほど、傷つくよ。まったく。
このあいだ20人超えたばっかりだ。
それも会社の人がほとんどで。これでは意味がない。同じフロアーにいるではないか。
「友達」
会社の仕事は、経営企画。
30年後の未来を真剣に考える。そんなことがあった。
白熱した議論の中で、facebookなんて、「いいね!」を押して遊んでるだけでしょうと、馬鹿にされた。
それにでも反論しきれなかった。
こっちは真剣にやってるのに。
いつか、1,000人友達つくって、反論してやろう。
そう思ったばかりなのに。
せまい満員電車の中、スマホを持つ手をつきあげながら、こう入力した。
「おっしゃることはわかりますが、やはり、それは理想ではないでしょうか。Facebookは既存のつながりを補完するものです。Facebookで知りあった方とリアルに会う…という例はないとはいえないですが、そうそう簡単なことではないでしょう」
書き込み終了。
すると、すぐに、ウォールのオーナーである中小企業診断士の彼から書き込みが。
「コメントありがとうございます。そうですか。Facebookで知り合った方とリアルにお会いするのは難しいですかね。でも、私達自身、こうやって、お互いに顔をわかっていて、お互いの勤め先その他もオープンにしあっている。リアルに会っても不思議でないと思うのですが。毎週火曜日は弊社の定休日なので、次の火曜日に、私達自身で会ってみませんか?」
おもしろいことをいう。
本名も社名も顔写真も明かしてはいるものの、まだ、実際には顔も見たことがない人間同士。
約束したからって、その通りになるとは限らない。
この提案、乗ってやるか。
「おもしろいですね。では、来週の火曜日、あなたのオフィスにお伺いいたします」
すると、さらに書き込みが。
「ありがとうございます。では、せっかくFacebookで知り合った2人が会うのですから、他の方も誘ってみましょう。Facebookには、イベント機能がありますから、これを使えば、集まるかどうかはわかりませんが、私達が会うことをイベントとしてFacebookの会員に告知することができます」
「いいでしょう。とても、他の人が集まってくるとは思えませんが、そこまでおっしゃるなら、公募でやってみましょうか」
「了解です。では、私の方で、イベントページをたちあげておきますね」
まるで、売り言葉に買い言葉。
いつのまにか、2人で会う約束をして、しかも、それが公開イベントになり、第三者も自由に参加できることになってしまった。
まあ、そうはいっても、誰も来るとは思えないし。
せっかくだから、この中小企業診断士の顔を見に行ってみるか。
「ごめんください」
「はい、どうぞ」
「あ、丈長さんですか。はじめまして。Facebookでお世話になりました田仲です」
「いつもありがとうございます。はい、私が中小企業診断士の丈長です。お待ちしていました。あっという間に、お約束した火曜日になっちゃいましたね」
「こちらこそ楽しみにして参りました。実際にお会いできてうれしいです」
「ありがとうございます。まあ、とにかく。どうぞ、こちらへ…」
「どうですか、集まりました?」
「ほら、こんなに。当日参加を決定してくださった方も含めて、全部で8名!」
「え! そんなに集まったんですか」
「集まったんですよ。私たちの実験に参加したいという方がこんなにもいらっしゃった。皆さん素敵なビジネスマンですよ」
「いやあ、それは驚いた」
「それは私もいっしょですよ。本当に驚いた。うれしいですねえ。今日は、皆で楽しく「雑談」いたしましょう。議題は、ええと、そうだな、… Facebookはビジネスに使えるか?…それから、この会合の名前は、とりあえず、
『ビジネス雑談サロン』
…でいかがでしょうかね」
田中和樹・竹永亮共著